「生パスタは、乾麺にないプリッとした食感が特徴です。最初の商品が出来上がる過程で、ウェスティンホテル淡路の料理長に相談しました。それで、料理長の手打ちパスタと当社の生パスタを食べ比べることになったんです。料理長は、『さすがは老舗の麺屋さんやなあ』と認めてくれました」
しかし、名ホテルの料理長に認められたからといって、一気に販路が広がったわけではない。商品としての形は出来たが、それを売っていくには愚直な努力を重ねるしかなかった。
「まずはNTTに電話をして、兵庫県中のタウンページを取り寄せました。そしてイタリア料理店の“ア”から順番に、ひたすら電話をかけまくったんです。でも、ほとんど相手にしてもらえませんでしたね。『淡路麺業です』と名乗った瞬間に、『要らん要らん』って切られることがほとんど。100軒に1軒ぐらいが『無料やったらサンプル送ってくれてもええよ』と…。そんな感じでした」
当時の会社は、従業員4人程度という小さな組織。気の遠くなるような電話営業も、出雲さん一人で行うしかなかった。
「自分でやり始めた以上やり切るしかないし、断られる覚悟でやっていましたから、心が折れることはなかったですね。100人に1人でも、興味を持ってくれる人がいるわけで。サンプルを送った後に『どうですか』って電話したら、『何か面白そうやな』と言ってくれる所も出てきました」
電話での売り込みのほか、展示会など食品関連のイベントにも積極的に出展した。1年あまり続けた後、導入した飲食店主からの紹介もあって、スローペースながら着実に取引先を増やしていった。
取引先の飲食店と徹底的に向き合う
今では、北海道から沖縄まで全国1500軒にまで取引先が拡大した淡路島の生パスタ。その過程で出雲さんが少しずつ確かな手応えを掴んでいった背景には、取引先の飲食店主やお客様からの声があった。
「卸業者を通さずに飲食店と直接取引しているので、リアルな感想や反応が届いてきます。
『生パスタを使うようになって、お客さんが増えた』『麺の作り方を聞かれる』などです。生麺ならではの特徴が伝わり、普通においしいと言われるレベル以上の手応えを掴みました。一般のお客様は、麺そのものに対して反応を示すことはなかなかありませんよね」
そういった評価の声もある一方、飲食店からのクレームや相談も多く寄せられたという。
「同じ麺を使っているのに、『お宅の生パスタ、イマイチやないか』『どうしたらええねん』という声も多かったです。調理の仕方が悪いと言ってしまえばそれまでですが、それではお店に対する批判でしかありません」
そこで出雲さんは麺を作って納品して終わりではなく、お店の厨房に入って調理を見せてもらったりしながら、どうすればおいしく提供してもらえるかまでを研究するようにしたという。
「自身での試作や取引先とのセッションに加え、イル・ギオットーネの笹島氏など関西イタリアン界の名シェフにも教えを請いました。また研究の一環として、2013年に直営の生パスタ専門店を立ち上げたんです。学んで得た知識を披露するだけではなく、自分たちで作ったものを消費者に出して評価をいただく。それではじめて、取引先に説明したり教えたりできると思ったんです」