生酒としての訴求力を高めた、差別化戦略
今や日本酒業界を代表する大手メーカーとなった月桂冠にとって、生酒の売上げが占める割合はまだ僅かでしかない。しかし、その売上以上に生酒は大きな意味をもつ商品となった。
長年にわたってパックやカップ入りなど普及タイプの酒の品質向上に注力してきた同社だが、一方で近年は新酒鑑評会やモンドセレクションの金賞を受賞するなど高級クラスの酒づくりにも尽力している。そこに、贅沢感のある「生酒」で差別化を実現したことは、ブランドにとって大きな一歩となった。
常温流通開始から30年を迎えた2014年には、画期的な生酒を造った当事者のプライドを賭けて大幅なテコ入れも行った。生酒と同様に、暑い季節の冷用酒として人気の生貯蔵酒のレギュラー商品発売をストップしたのである。
「生酒類の主流は造り方も温度管理も生酒ほど難しくない生貯蔵酒です。もちろん当社も1992年から販売を続けましたが、常温流通の生酒を開発したメーカーとしては本物の生酒で勝負したかったわけです」(田中さん)
「日本酒業界の生酒関連商品売れ筋トップ10あたりを比較してみると、他社さんでは生貯蔵酒が多かった。その中で、当社は生酒と生貯蔵酒に分かれていたものを生酒に一本化して本物の生『本生』で差別化を狙いました。業界初の常温流通生酒を生んだ月桂冠というブランドを訴求していこうと考えたわけです」(石田さん)
差別化による訴求力アップを図った生酒への一本化を機に、商品パッケージも一新した。他社商品では300mlビンが主流の中、やや小容量の280mlを採用。同クラスの酒としては斬新な多面カットを施した流線型ボトルやゴールドの色使いで、高級感と洗練されたイメージを打ち出している。
「開発前に行った当社のマーケティング調査では、生酒や生貯蔵酒の主流である小容量ビンの酒に対し『ちょっと贅沢に味わいたい』という意見が多く、それをもとにビンの形状やデザイン、パッケージなどを考案しました。『鮮度際立つ』というコピーは、『生きた酒』を訴求するためのひと工夫です」(藤田さん)
同時に、業務用として180mlサイズも投入。これまでの日本酒ボトルにはないスタイリッシュなフォルムと気軽にオーダーできる容量で、居酒屋や割烹などの飲食店をはじめホテルからの引き合いも強いという。最近では、イギリスの寿司店への納品もスタートするなど、生酒の人気は海を越えて広がりをみせているようだ。
創造と革新を繰り返しながら近代化を進めてきた老舗蔵発の新しい酒。業界随一の技術力はもちろん、横並びではなく敢えて差別化を図った戦略で、生酒=月桂冠という新たなブランドイメージを生み出しつつある。
月桂冠株式会社
住所:〒612-8660 京都市伏見区南浜町247
電話:075-623-2040(お客様相談室)
事業内容:清酒、本格焼酎、リキュール類の製造販売。ドイツビール、ドイツワイン、フランスワインの輸入販売
公式HP:http://www.gekkeikan.co.jp/
お話:総合研究所製品開発課 課長 石田博樹さん、総務部広報課 課長 田中伸治さん、同 藤田愛里さん