「パッケージ選びには、とても苦労しました。添加物を使用せずに3ヵ月も日持ちさせるパッケージでなくてはならないですし、夏場に起こる油の嫌な匂いを防がなければならなかったからです。包材を安く押さえてリーズナブルな価格にしたいと思っていましたが、それらをクリアするために試行錯誤の末、アルミの袋を導入することに決めました。また、素材だけではなくデザインにもこだわっています。素朴で親しみやすいお菓子であることと、自慢の厳選食材を使っていることをイメージさせるものにしたかったんです。商品写真がバチッと載っているものはちょっと違うなと思い、三重県伊賀市で活動する絵本作家の田槙奈緒さんにイラストをお願いしました。何とか商品化はできましたが、発売当初はどこに販路を見出すべきかなど、売るのは難しかったですね」
雑貨屋店やカフェなど独自に販路を開拓
『大地のかりんとう』シリーズは、直売店での売上は1割にも満たず全国に約100店舗ある卸し先からの売上が大半を占める。その卸し先にも、山本さんならではのこだわりがある。従来、菓子類の販売にあたっては量販店やスーパーのお菓子売場を取引先として想定することが多いが、『大地のかりんとう』は雑貨店やカフェ、ギャラリーといったライフスタイル提案型のショップで販売展開をしている。
「展示会に出したり、スーパーに置かせてもらったりしたこともありました。でも、この商品は中身が見えないしパッケージに写真も載っていない。おまけに少量。スーパーでの購買行動は0.2秒で決まるといわれていますが、それをクリアするものが何ひとつないのです。担当者には何か違うと言われましたし、実際に商品も動かなかったですね。それで新しい販路を考えたのですが、素朴で親しみやすいまっちんのお菓子は消費されるだけの量販店やスーパーで売るのはちょっと違うな、と。素材にこだわって一つひとつ丁寧に作ったお菓子なので、その思いに共感してもらえるお店に置いてもらいたいと思いました」
ライフスタイルショップには、日々の暮らしを大切にし、毎日を丁寧に過ごす高感度な人たちがたくさん集まる。『大地のかりんとう』は最初から爆発的なヒットを飛ばしたわけではないが、そんな人たちの支持を受けながらじわじわと人気が広まっていった。最近では町野氏がお菓子の本を出版したこともあり、多くの人たちに認知され販路が拡大したと山本さんは話す。
「ここ半年くらいで、京都の高島屋さんや東急ハンズさんといった大型店にも声をかけてもらっています。でも、僕たちの思いを汲んで下さる方とパートナーシップを結びたいという思いは変わりません。時折、見積もりの時点で価格交渉を申し出る方もいますが、『いい材料を使って手間ひまかけて作っている。だからこの価格になる』ということをしっかりお話しします。安売りして買っていただく商品ではないと思っていますし、安売りした時点で取引は止める覚悟です。他のお客様にご迷惑がかかりますから」
かりんとうを通して広がるネットワーク
岐阜という地方都市で誕生した『大地のかりんとう』は、今や全国区のお菓子へと成長を遂げた。多くの広告費をかけ、発売と同時に話題を呼び爆発的なヒットを飛ばす商品もある中で、作り手の思いに共感した販売店や消費者の力によって口コミのみで確実にファンを増やしていった商品だ。
「油の卸しもそうなんですが、『大地のかりんとう』に関してもいわゆる“飛び込み営業”をして売り込んだことがないんです。とてもありがたいことに、商品を気に入ってくれた人たちが他の人やお店を紹介してくれて、そこからまた別の人たちを紹介してくれる。そんなふうに連鎖して、今に至っています。『食を通して人が幸せになる。食を通して人と人とがつながっていく』ことの喜びを常に感じながら、かりんとうという商品を通してもっともっとつながりを広げていきたいですね」
老舗の暖簾を守り、売上目標を達成することは商売を行う上で重要なこと。だが、人との出会いやつながりを重んじ、まずは楽しんでやることも大切なのではないか、そう思わせてくれるインタビューだった。岐阜の小さな油問屋が、今後どのような出会いとつながりで“新しい価値”を生み出してくれるのか、その動向が楽しみだ。
合名会社山本佐太郎商店
住所:〒500-8084 岐阜県岐阜市松屋町17
電話:058-262-0432
事業内容:油、調味料、食品の卸売業及び、菓子類の販売業
公式HP:http://m-karintou.com
お話:代表 山本慎一郎様