築地と新潟の連携で、相場の安い魚を大量仕入れ
【Q】現在も店頭には豊富な魚種が並んでいますが、あれだけ揃えるのは大変なのでは?
そうですね。その日に水揚げされた魚は、翌日になると鮮度は絶対に落ちるわけです。鮮魚・生魚というのは3日目、4日目になると売り物にならなくなります。売り切らなければロスになってしまう。仕入れるだけ仕入れても、売り切るためにはノウハウが必要です。だから普通の魚屋さんがうちの店頭を真似て鮮魚をそのまま並べても、価格とお客さんのニーズが合わなくてロスがものすごく出てしまうんです。
【Q】ロスの出ない仕入れには、どんな秘密があるんですか?
お客さんは魚屋へ来る時に、「今日はアジを買おう」「サンマを買おう」とあらかじめ決めてくるわけではないんです。魚屋へ入って自分の目で魚の鮮度や価格を確かめて、「今日はアジが安いから」という風に買って行きます。
弊社では新潟と東京の築地にも鮮魚の仕入れスタッフがそれぞれ7~8人いて、朝になると築地と新潟で連絡を取りあってそれぞれの相場を確認して、どちらか安いほうから買うという方法をとっています。
魚は原価が決まっていませんからね。その日の水揚げ量によって味は変わらないのに、例えば1箱1500円のサンマが1000円の時もあれば、2000円の時もある。だからサンマが安ければ、普段500箱仕入れるところを600箱とか700箱売ろうと判断して買い付けるわけです。逆に相場が高い時には、250箱に抑えておこうとか、臨機応変に対応しています。
ですから、その時期によく売れる魚でも、仕入れ値が普段より高過ぎるようなら仕入れません。高ければ売れ残るだけですからね。
ところが、大手の魚屋さんやスーパーの場合は、大体バイヤーという人にサンマ30箱とかイワシ20箱といった具合に、前もって確保すべき数量や売れ筋の魚を伝えておいて、相場の高低にあまり関係なく仕入れています。これでは、相場が高ければ売値も上がって必然的に売れ残るし、安ければ途中で売り切れてしまいます。
亀のようにゆっくりと、しかし確実な店舗展開
【Q】関東への進出は、どのようなお考えで進められていましたか?
開業当初は驚くほど順調に売上げが伸びてましたが、私はどんな商売でもてっぺんが来ると、しばらくは安定しても後は下り坂しかないと思っています。だから売上げが伸びていた1980年頃はものすごく怖かったんです。
ちょうどその頃、お客さんの車に群馬や埼玉ナンバーが多くなってきました。やけに関東方面からお客さんが来るなと思ったら、関越自動車道が部分開通した時期だったんです。その時私が考えたのは、この先、全線開通したら関東と新潟がグンと近くなるということでした。ならば、毎日不安を抱えながらお客さんを待っているだけではなく、こちらからも魚を持って行って売ろうと決心したのが関東圏進出へのきっかけです。
【Q】出店のペースがスローペースのようにも思います。
魚屋は魚を捌いたり、食べ方を説明したりする人間が1店舗に10数名は必要です。1店舗出店するためには、単にスタッフの頭数を揃えればいいというわけではなく、魚に精通したスタッフは既存店から連れて行くのです。だからそれ以上のペースで出店すると今度は既存店の質が落ちてしまうのです。そんな理由でこれまで亀のようにゆっくりと1年に1店舗ぐらいのペースでやってきました。
もうひとつ理由があって、私ひとりで店舗を見て売り場をしっかりチェックするとなると、22か23店舗が限界なんですね。それ以上だと質を維持できないんです。
私は今も毎日午前3時半に起きて市場へ行っていますし、店にも立ちます。社長というのは、いつでも現場に立って現状を見ながら判断をしていかなければならないと考えるからです。机の前に座って、売上等の数字だけを見て良い悪いと言っているだけでは、現場と乖離してきますよ。だから、私が社長でいる間は市場も店にも出続けるつもりです。
【Q】この先の店舗展開は、どのようにお考えですか?
今後のこととなると、私もあと4、5年したら引退だと思います。今は若い連中が育ってきていますし、彼らの代ではブロックごとに店を見させているので、店舗も増やしていけるんじゃないかと思います。まあ、それも私が引退した後ですし、この先20年30年後には私ももうこの世にはいませんから(笑)。もう気を揉むこともないですし、好きなようにやってくれという気持ちですよ。
※文中の柳下様の漢字表記につきまして、表示環境によって異なる文字になる可能性があったため、正字の「柳」を使用させていただきました。正しくは木偏に夕に卩(Unicode:U+6801)です。
角上魚類株式会社
企業所在地:〒940-2502 新潟県長岡市寺泊下荒町9772-20
事業内容:鮮魚及び鮮魚加工品の小売業
店舗:新潟県内に3店舗、関東一円に19店舗の計22店舗。(2014年9月現在)
公式サイト:http://www.kakujoe.co.jp