博多劇場『鉄鍋餃子』(一家ダイニングプロジェクト)
最初に紹介するのは、6業態69店を展開し、2020年に東証1部上場を果たした株式会社一家ダイニングプロジェクトの『屋台屋 博多劇場』。2010年に千葉県成田市で第1号店をオープンして以来、同社の主力業態として首都圏を中心に47店舗を構えている。統括料理長・紺谷圭市氏に店舗コンセプトについて聞いてみた。
「もちろん博多の屋台をコンセプトにしています。屋台は、子供も大人もワクワクできる楽しい場所です。その屋台を居酒屋で、しかもいろんな食材を扱う屋台を集めてみたら、さらに楽しい雰囲気を作れると考えました。お客様に楽しんでご来店いただける業態作り、というのが根底にあります」
メニューについても“屋台感”を大事にしているという。その博多劇場のイチオシは何なのか。
「一番のおすすめは『鉄鍋餃子』です。博多・中州の名物で、ひと口サイズでパクパク食べられるのが特徴です。餃子のメニューは世の中に当たり前にありますが、鉄鍋で焼いて提供するお店はさほど多くありません。鉄鍋餃子は、見た目にもインパクトがありますし、焼いて、蒸して、揚げる調理工程で、カリっと、モチっと、ジューシーに仕上げているため、他の餃子との差別化が図れると考えています」
鉄鍋餃子の調理オペレーションは、ひとつひとつ手作業で仕込んでいるそうだ。
「当店の餃子はひと口でパクパクと食べられるように皮の水分量や、野菜とお肉の比率を考えて、店舗で毎日手包みして提供しています。しかしこだわりを持つことで、課題も出てきました。店舗数が増えるに従って、どうしても店ごとに味にブレが出てきてしまうのです。
同じ皮、同じ食材を使っていても、店舗で仕込む人による差や、食材管理や焼き方などで味に違いが出てしまいます。そのために食材の管理方法や焼き方などを細かく分析し、作り方を統一しました。
鉄鍋はこのくらい温め、餃子を並べる間隔はこのくらい、水の量は何CCで、約何分、どの程度の強さの火を入れるのか、などです。そのように調理している動画を撮って、作り方のスタンダードとして各店舗に共有し、誰でもどんな場所でも確認できるようにしています」
お客の満足度が高いのは、品質管理と各店への作り方の共有だけではなく、提供スタッフのサービス力も重要だ。
「料理だけでお客様に『おいしい』といっていただけるわけではありません。提供するときひと言を添えることでも、価値を上げることができます。『タレとラー油で食べていただくのもおいしいですが、柚子胡椒だけでもすごくおいしいので、ぜひお試しください』と、そういうひと言をしっかり勧められる、そんな接客も大事なんです」
味にこだわれば、その味を一層際立たせるための接客にもこだわらざるを得ない、と紺谷料理長はいう。
「そのために調理に関わっていないスタッフにも、おいしい餃子をお客様に食べていただきたいと強く意識してほしいと思っています。当店にオープンキッチンが多いのも、お客様に見ていただくことでプロとしての意識を保ってもらいたいからです。各店舗にスマイルカードというアンケート用紙を置いて、お客様にスタッフむけのメッセージを書いていただくのもその一環です。働く側は演者で、常にお客様を楽しませたいという意識を持つことは大事だと思っています」
味を守るための品質管理と、付加価値を添える人財育成。ブレない餃子をつくるためには、調理作業だけでなく従業員へのコンセプトの共有と理解が不可欠なのだろう。
テディーズビガーバーガー『アボカドチーズバーガー』(H1GLOBAL)
ブレないという意味では、次に紹介する『テディーズビガーバーガー』も同様だ。H1GLOBAL株式会社が、原宿、横浜、鎌倉、宮崎、沖縄で展開しているハンバーガー業態は、もともと1988年にハワイで産声を上げた。その後アメリカ本土のほか、フィリピン、タイ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦にも広がっている。同社執行役員の岑知幸氏に、店舗について聞いてみた。
「ハワイの味、ハワイの雰囲気を日本で味わえる、というのが基本コンセプトです。もともと創業者のテッド氏とリッチ氏が自宅のガーデンバーベキューで作るハンバーガーの味を提供したいという思いから始まっていて、当社はその味を守っています」
当然、メインの食材にはこだわりがあるという。
「ハワイの本店とほぼ同じ食材を使っていて、パテは米国産牛肉100%、赤身肉と牛脂の割合が最適な肩肉を使用しています。同時に、ステーキにも使用されるミスジをあわせてミンチにして作り上げているので、驚くほど肉汁がでてジューシーなのがウリです。これを特製の高火力グリルでカラッと焼き上げるので、余分な油のないアメリカンビーフパテになっています。バンズも田舎風ホームメイド製法でじっくりと焼いて、表面の焼き色を抑えつつ、ふわふわの食感が特徴です。これに、店舗ごとに仕入れ先を変えて提供するレタスやタマネギ、トマトなどの新鮮野菜が彩りを添えています」
このバーガーは、ハワイで毎年開かれるハンバーガーコンテストで、20年続けて「ベストバーガー賞」を受賞している。ハワイを代表する味ともいえるのだ。
「その味の決め手が、やはりハワイ本店から引き継がれている秘伝のオリジナルスペシャルソースです。濃厚なのにサッパリとした味わいは、他にはないと自負しています。ただし、味付けには本店とは異なる工夫を加えています。15種類の香辛料やハーブを使ったオリジナルシーズニングは、ハワイ本店とは材料や量を変えて、日本人の味覚に合うよう調整しています。素材をいかに生かしていくかを意識して開発したものです」
イチオシメニューは『アボカドチーズバーガー』。ボリュームとヘルシーさを兼ね備えて、まさにハワイの味を思い起こさせるという。
「アメリカンチーズとアボカド、オリジナルスペシャルソースが絶妙なバランスで混じり合い、味の決め手になっています。ソースとアボカドの相性がとてもいいので、当店の特徴的な味がグッと凝縮されているバーガーといってもいいでしょうね」
原宿店では、各種あるメニューの中でもこのアボカドチーズバーガーが、全体の3割近い販売量を占めている。その他のハンバーガーはハワイの製法を守っているが、サイドメニューはオリジナルがずらりと並んでいる。
「特製ロコモコ、ハワイの唐揚げモチコチキン、ハワイアンパンケーキ、レモネードなど、サイドも豊富です。なかでもポテトフライは人気ですね。カリッとしてホクホクなうえに、トッピングとしてチーズソースやチリソース、明太マヨと併せて注文されるお客様が少なくありません」
テディーズビガーバーガーのメニュー開発は、どのように行われているのか。
「当社には、特に開発部という部署がありません。各店舗の店長クラスのスタッフが、2ヶ月に1度新しいメニューを持ってきます。そこから皆で話し合うという形を取っています。そのなかから一時定番になったものもあります。いずれもお客様を飽きさせたくないという思いから開発しました。あくまでもハワイの味、ハワイの雰囲気に沿ったもの、パテとバンズとオリジナルスペシャルソースがマッチする味。そういったことが苦労している点ですね」
ハワイのソウルフードを頑なまでに守り、それを独自のレシピで提供する。そのスタイルを貫くことが人気を支えている。
鮪のシマハラ『天然本マグロ盛り』
運営会社「鮪のシマハラ株式会社」は、2004年に中国・上海でマグロ専門店を展開し、最盛期には直営14店舗、FC3店舗で年商20億円を達成した。しかし2018年には中国での事業をすべて手放し、日本に舞台を変えた。2019年に神保町で1号店を、コロナ禍にあった2021年3月には水道橋店、続けて6月に大手町を出店している。日本での初出店から関わったという大手町店の清水典彦店長に、店舗のコンセプトについて聞いた。
「よく聞かれるのですが、そんな大層なものはありません。『大好きなマグロの魅力を多くの人に伝えたい!』という、ただそれだけです」
『鮪のシマハラ』は、ただただ熱いマグロ愛で勝負しているといっても過言ではなさそうだ。そもそも、いいマグロとは何なのか。
「マグロには、本マグロ(クロマグロ)、ミナミマグロ(インドマグロ)、キハダ、バチなど、多くの種類がありますが、当店では本マグロとミナミマグロのみ使っています。マグロは脂が命で、この2種類は特に脂が乗っています。そのうち本マグロには天然と養殖があって、天然ものはアイルランド産、養殖物は地中海、特にスペインの有名な漁港で水揚げされたものを中心に使っています」
イチオシメニューは当然、マグロ料理となる。
「やはり刺身、特に『天然本マグロ盛り』がオススメです。和牛にA4、A5などのランクがあるように、マグロにもグレードがあります。『天然本マグロ盛り』で使うマグロは、最高ランクのグレード5。いろんな部位を盛り合わせにしたもので、カマトロ・鉢の身(脳天)・赤身・中トロの4点セットになっています」
本マグロは天然だけでなく、養殖ものも外せないそうだ。
「別の人気メニュー『マグロ刺身全部盛り』は、養殖の本マグロとインドマグロの、いずれも大トロ、中トロ、赤身の部位を6点盛り、食べ比べていただけます。天然に比べて養殖は味が落ちるという人もいますが、吟味したマグロなら甲乙付けがたいんです。実際、多くのお客様が『養殖でこれだけ旨いなら天然も食べたい』と言っていただいています」
水道橋店の場合、9割の客がこの2種の刺身を注文するという。ただ、マグロの醍醐味は刺身だけではないという。
「当店では『マグロの焼肉』を提供していますが、これを一度お試しください。脂が乗っている部位を軽くあぶって脂を切って、塩やわさび醤油でいただくと、これが絶品なんです。リピート率はかなり高いですね。マグロの焼肉はホホ肉、トロカルビ、ハツ(心臓)の3種類ありますが、一番出るのが『ホホ肉のぶつ切り』。よくお客様から『せっかく新鮮なんだから、焼かなくてもいいんじゃないか』と言われます。しかし、焼くとまた別物なんです。本マグロが刺身でも焼いても旨いということを、ぜひ一度食べて、知ってもらいたいですね」
他のオススメメニューも、マグロ専門店ならではになる。
「2点あります。一つは赤酢で仕込んだシャリに乗せた寿司。当店の職人のこだわりが人気のようで、お客様の注文の順も、最初は刺身でシメに寿司、という黄金パターンができ上がってきました。もう一つは『飲み放題付き/鮪の食べ尽くし全6品』というコース。当店で一番のマグロを入れているので、これさえ食べておけば間違いありません。あ、他にもオススメがあって」
と、この分ではすべてのメニューを紹介されかねない勢いだ。水産物は歩留まりが多く原価が高くなりがちだ。メニューの料金は、『本マグロ盛り』1人前1,518円、『マグロ刺身全部盛り』1,078円。飲み放題付きのコースは税込みで6,600円。
「平均客単価が5,000円前後なので、学生が気軽に来られる、というわけにはいきません。でも、多くのお客様からは『この味でこの価格ならリーズナブル』と概ね好評をいただいています。それに飲み放題は、よくある制限付きのものではなく、どんなお酒でもOKで、特にコースについては若いリピーターも少なくありません」
たしかにリーズナブルだが、原価のほうはどうなっているのか。
「当社の社長が上海時代に培ってきた仕入れルートがあり、徹底したコスト削減策を行っています。たとえば1号店の店舗物件は、居抜きで借りて、ほとんど造作を入れずに使っています。立地も、駅からはやや離れた裏通りにあり、マグロに特化したおかげで季節感などをメニューに盛り込む必要もありません。当社はまだまだ弱小企業ですが、『原価がどうのこうのということは、もうちょっと大きくなったから言おうぜ』と。いまは採算よりも、まずはマグロの魅力を知ってもらいたい。そんな気持ちですね」
そこまで徹底する背景を聞くと、清水店長はさらに熱く話し出した。
「社長はよく『マグロ難民を俺たちが救おう!』と言うんです。『今日は記念日だからおいしいマグロを食べにいこう』というとき、どんな店に行きますか?居酒屋か高級すし店かで迷って、結局は回転寿司で済ませる、というのが一般的ではないでしょうか。それが『マグロ難民』というわけです。おいしいマグロを気軽に食べに行ける。そういう機会を作りたいというのが、社長をはじめ我々の思いなんです」
マグロへの熱い思いだけで突き動かされてきた『鮪のシマハラ』だが、一途に営業を続けてきて、最近ある動きがあったという。
「開店当初、店のお客様は中年層の男性ばかり。マグロ専門店だけに仕方がないと思っていましたが、最近の男女比率は半々になりました。女性は大半が若い方です。なぜなのか女性客に聞いたら、『インスタとかで結構有名ですよ』というんです。なにか1枚壁を越えたような気がしましたね」
飲食店の人気を支えるものは様々だ。明確なコンセプト、緻密な品質管理、従業員の対応。いずれにしても、メニュー開発は単に食材の組み合わせを考えることではなさそうだ。食材選びや調理オペレーション、従業員への想いの共有、お客への提供までのバックボーンを整えること。そうしてはじめてイチオシメニューは生まれるのかもしれない。