「満マルには、わざわざ遠くから足を運ぶような特別なメニューはありません。どちらかというと行動範囲の半径1キロ圏内の駅前にあって、“もう満マルでええやん” という店です。そのかわり、品数が多いので、肉が食べたい人、刺身が食べたい人と希望が分かれても、なんとなくまとまるという良さがあるんですね。
多分ですが、店の名前とかで来てくださっているわけでもないと思います(笑)。例えば“あそこなんやったっけ、えーマル…なんとか”とか、店のマークとか“駅前にあの店あったな”と寄ってもらえるんです。
そう考えると、もう都会のど真ん中に店を出しても地方のどこかに出しても売上はそう変わらないだろうなと。ですから東京でも新宿ではなく蒲田、大阪も梅田ではなく天満とか、郊外の駅やけど駅前といった二等地のA立地を狙っています。港区とかで飲んで地元に帰ったときに、ちょっともう一杯飲もうかとかそういうお客さまを願っています」(利川氏)
メニューのほとんどは一皿500円以下という低価格だ。ボトルキープもできるため、1品注文のみで客単価が400円、800円になることも少なからずある。
「それでいいと思っています。そういうお客様は店の強力なファンやリピーターになっていただけますので。他で飲んだら4000円くらいかかるけど、満マルなら2000円で済みますから」(利川氏)
朝、店に来て「また来るわ!」と出ていき、夕方友達を連れて、「ここの店の常連やねん」と帰ってくる客もいるという。一度慣れてしまうと、他の店に行きたくなくなる。そんな魅力が満マルにはあるようだ。しかし、低価格で豊富なメニューを提供する大衆居酒屋は、満マルに限らない。他店との差別化はどうしているのだろうか。
簡単そうにみえて、実はマネできない店づくり
「満マルは、自分たちが行きたい店という発想がはじまりです。ですから低価格でも料理はちゃんとしたものを提供しようという思いがあります。たとえば寿司もひとつずつ手で握っています。
でき合いのものをそのまま出すのではなく、手をかければ“ここでこんなん食べれんねや”と喜んでいただけます。また、リピーター客も多いので飽きないようにおすすめメニューは3週間に一度見直しています」(松宮氏)
調理面でも、寿司を握ったこともないような新人にも、2ヶ月間みっちり社内研修して板場からしっかり教えるなど、人材育成や調理にも手間をかけている。この手法は効率化を求める大手チェーンには難しいだろう。
チェーンにひけをとらない豊富なメニューを手ごろな価格で提供しながら、個店のような細やかな心くばりで顧客を喜ばせ続けているのだ。
実際に、満マルの内装やメニューを真似た店が出てきたというが、その多くは長続きしていない。満マルの店づくりには、簡単そうに見えてなかなか真似できない工夫がなされているからだろう。価格もその要素のひとつだ。
「実は、もともとの料理の価格設定が安いため、メニュー全体の内15%は原価50%を越えています。人件費も含めたF/Lコストで計算すると65%を越えるので、普通の企業なら、やりたくてもできないという部分もあるでしょう」(東田氏)
では、なぜ満マルではそれが可能なのか。それは、本部の役員でありながらFCオーナーでもある、3氏のような社内独立した経営者の存在も大きい。