証券マンから居酒屋オーナーへ
前職は証券会社の営業マンで、29歳の時に一念発起し名古屋で居酒屋を開業した猿渡社長。独立へと踏み切る際に背中を押したのは、金融業と飲食業で得る事ができる充足感の違いだそうだ。
「証券会社でお客様に喜んでもらうのは株価が上がった時で、買ってもらう時には逆に不安がられることがあります。でも、飲食店の場合は、お客様に料理を提供した時点で喜んでもらえるんですよね。僕らはそれを期待して作ることができる。お客様の喜ぶ姿を肌で感じられるというのは、この仕事の醍醐味じゃないかと思います」
この思いは9つある同社の「経営理念」にも色濃く反映されているように思える。そのひとつには、「今日もお客様に『わぁ、きゃぁ、ドキ!』を与えていきます」とある。お客の喜ぶ顔が思い浮かぶような理念だ。
まずは、名古屋の繁華街・栄に一軒家を改築した居酒屋を出店し、続く2店舗目を名駅に出店。その後、猿渡CEO自身がどちらかといえば甘党ということもあり、「猿cafe」を出店することになる。
女性スタッフの感性をフルに活かした店作り
今でこそ「猿cafe」は名古屋を代表する人気カフェだが、栄に出した1号店には、なかなかお客が入らなかったという。
「売れないので夜中もやっていたんですが、あまりにお客様がいないので友人がよく来てくれていました。ある時その友人が店の中で当時流行したエクササイズDVDを流してフロアで汗を流しているのを見た時に、すごく切ない気持ちになって…。これは本当にダメな店だなと思いました」
当時を振り返り苦笑いする猿渡CEOだが、この時に、現在まで続く“スタッフの意見を広く取り入れる”という店舗運営を生み出すに至る転機が訪れる。
「もうカフェは辞めようと思っている中で、アルバイトの女の子二人が育って来ていたんですね。辞めるなら、いっそのこと彼女たちにお店のすべてを任せたほうがいいと思い『よし、好きにやっていいよ!』と。メニュー作りも彼女たちに任せました。
それまでケーキは市内の有名なケーキ屋さんにお願いしていましたが、彼女たちの手作りにしました。正直言うと、チーズケーキもガトーショコラも見た目には素朴というか素人っぽい。ケーキの上に大盛りの生クリームが乗っているのが、女の子独特の感性でしたね。メニューブックも彼女たちの手描きにしたり、さらには店の壁いっぱいに大きな猿の絵まで描いて。『ああ、原状回復するのに結構かかるなあ…』と思いながら、仕方ないなと。どれもおじさんの感覚では出て来ないアイデアでした」
細部に女の子らしさを取り入れたことと、さらにもうひとつ、カフェとしては新しい取り組みも「猿cafe」が流行するきっかけを作ったという。