多くの人々が外食に楽しい時間を求めている。しかし食物アレルギーのある人は、同席者と同じものが食べられないといった制限があり、特に児童では半数がレストランなどで思うように家族と外食できないのが現状だ。
児童に限らず成人も食物アレルギー患者が増える現在、患者にとって外食できることは憧れと捉えられている。前回は食物アレルギーの基礎知識を紹介したが、今回は飲食店が食物アレルギーのあるお客に対応するための具体的な方法を見ていこう。
飲食店のアレルギー対応の現状
容器包装された加工食品と違って飲食店のメニューにはアレルギー表示の義務付けはなく、現在はアレルギーの対応自体をしていない外食企業が多く見られる。その中でも対応している企業は、ウェブサイトで各メニューに含まれるアレルギー物質を表示したり、「卵を使わないハンバーグ」など低アレルゲンメニューを販売したりといった対応をしている。また、直接的な表示対応をしなくても、メニュー表に「お問合わせください」と表記したり、注文を受ける際に確認したり、事前の問い合わせに対してはメールや電話などで案内しているところもある。企業によって様々だ。
飲食店が取るべき食物アレルギーの対応
飲食店での食物アレルギー対応は、大きく分けて「食物アレルギーの情報提供」と、「食物アレルギー物質を除去したメニュー提供」の2つに分けることができる。
食物アレルギーの情報提供
前編で触れたとおり、食物アレルギーは原因物質、量、症状が人それぞれ違うため、飲食店が画一的な対応をすることは非常に難しい。むしろ患者本人が「食べられるかどうか」判断できるよう、正確な情報を提供することが基本的な対応となる。
使用する食材の正確なアレルギー情報を把握するためには、仕入れ先から常に最新の情報を集め記録する必要がある。商品規格書(アレルギー情報や原産国などの情報を記した仕様書)の提供を依頼しておこう。管理しておく食物アレルギーの範囲は、食品表示法で定められている特定原材料などをベースに考えればいいだろう。
また、情報提供の方法も重要だ。タイミングによって来店前と来店時がある。いずれの場合も、まずはお客に食物アレルギーの情報を提供していると気づいてもらうことが重要だ。
1.来店前の提供方法
患者が外食する際は、来店前にその店がアレルギー対応をしているか情報収集することが多い。このため、外食企業が電話やメールなどで問い合わせに応じたり、Webサイトやスマホアプリなどで情報提供することはお客にとって利便性が高く効果的だ。
2.来店時の提供方法
店舗のメニュー表にアレルギー物質を記載する、アレルギー一覧表を作成してお客に提示するなどの方法がある。一覧表は児童や外国人のために、文字のほかに図やイラストを用いることも有効だ。例として以下のようにメニューごとに表記することが多い。
メニュー | えび | かに | 小麦 | そば | 卵 | 乳 | 落花生 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
ビーフカレー | ● | ● | |||||
和定食 | ● | ||||||
フライドチキン | ● | ● | ● |
食物アレルギーの情報管理には、データベースを使ったシステムも提供されている。書類による管理よりも確認や更新がしやすいので、選択肢として検討してよいだろう。
アレルゲン除去メニューの提供
特定のアレルゲンを除去したメニューの提供には、定形メニューを提供する対応と、オーダーメイド対応がある。
(1)定形メニュー対応
鶏卵を使用しない豆腐ハンバーグや7大アレルゲンが除去されたお子様ランチなど、特定のアレルゲン食材が使用されていないメニューを販売する対応。
(2)オーダーメイド対応
店員が注文時に食物アレルギーの状況を聞き、原因物質を抜くなどお客の希望に合わせて個別対応する。これは素材原料を中心とした調理をする飲食店で多く取られている。しかし加工原料や調味料を一部でも使用する場合には注意が必要なため、基本的に食物アレルギーの軽症者向けとなる。
コンタミネーションを予防する
厨房で調理するときなど、調理器具や揚げ油などを介してアレルギーの原因食物が意図せず混入することがある(コンタミネーションという)。アレルギー対応食を調理する場合はコンタミネーションが発生しないよう、調理器具や、揚げ油の使い分けなどの工程管理、配膳などの作業を徹底する必要がある。
しかし現実的に、飲食店では限られた厨房スペースで様々なメニューを調理するため、コンタミネーションのリスクは避けられない。基本的にはリスクはあると捉えて、安易に混入の可能性はないと示してはいけないし、消費者にリスクを伝えることも必要だ。
(例)コンタミネーションリスクの伝え方
厨房では同じ調理器具を使用しています
そばとうどんを同じ釜で茹でています
エビ・鶏卵・小麦・牛肉・豚肉・鶏肉を同じ施設(厨房)内で調理しています
対応のポイント
あいまいな対応は絶対しない
外食事業者が正確な対応をするには限界がある。そんな中、もっとも危険なのが、あいまいな対応による誤食だ。正確な対応ができない場合や情報に自信がない場合などは、「対応できません」「分かりません」と明確に伝えることが、消費者のリスクを回避することになる。できないと伝えることも対応だ。
従業員教育
食物アレルギー対応は、まず経営者が必要性を理解することから始まり、次に指導者や管理者、運用する従業員などへ落とし込む必要がある。主な内容は下記のとおりだ。
1.啓発・意識の変容
経営者自らが食物アレルギー対策への意識を向上させることが必要である。衛生概念と同じように、食物アレルギーの正しい対応の必要性を示そう。
2.マニュアル作成
最適なアレルギー対応は、事業者や店舗によって違ってくる。事故を起こす原因は、仕入先からの情報ミス、メニュー開発(構成)ミス、店舗ミス(手順書に従わない食材の使用やオーダーの伝達ミス)など様々な段階で発生しうるからだ。そのため、それぞれの業務内容と照らし合わせた独自のマニュアル作成が必要となる。従業員同士の確認方法や原材料にアレルギーを識別できるマークをつけるなど、具体的な情報管理および伝達方法を定める必要がある。また、マニュアルを作成したらその通りの対応ができるかもチェックしておこう。
3.研修
対応する・しないにかかわらず、従業員への食物アレルギー研修は必要である。事業者から従業員まで正しい知識を得て、世の中のアレルギーに関する最新の知識を取り入れる研修を開催しよう。特に飲食店は従業員の入れ替わりが激しいため、研修は定期的に開く必要がある。
ロイヤルホストの取り組み
実際の外食企業は、どのような取り組みをしているだろうか。平成26年に消費者庁で開催された「第3回 外食等におけるアレルゲン情報の提供の在り方検討会」で報告されているロイヤルホールディングスを例に見ていこう。
ロイヤルホールディングスは、ファミリーレストランのロイヤルホストや天丼てんやなどのほか、空港・高速道路のフードサービス、事業所、病院、介護施設などの給食、ホテルなど飲食事業を幅広く展開している。このような状況で取り組んでいる内容を次ページに紹介しよう。