1.審査の経過
「JA研究賞」は、JAとJAに関連する協同組合運動についての著書・研究論文等のなかからすぐれたものを選定し、JA全中が表彰する制度であり、昭和 48 年度以来、表彰を行っています。
令和5年度については、協同組合関係研究者約 120 名に令和3年(2021 年)1 月以降令和4年(2022 年)12 月末までに刊行あるいは発表された個人のJAとJAに関係する協同組合運動についての著書、研究論文を対象に推薦を依頼しました。
推薦された 10 件についてJA研究表彰奨励選考委員会(10 月 25 日開催)及び奨学委員会(11 月 10 日開催)において審議を行い、下記のとおり鈴木宣弘氏著『協同組合と農業経済 共生システムの経済理論』に決定しました。
著者名 鈴木 宣弘
作品名 ・協同組合と農業経済 共生システムの経済理論
・東京大学出版会
・2022 年1月
2.著書の概要
『協同組合と農業経済 共生システムの経済理論』
(東京大学出版会/2022 年1月)
【著書の概要】
市場原理主義経済学は規制撤廃こそが社会の経済的利益を最大化すると説くが、それは市場参加者が誰も価格支配力を持たないことを前提とした架空の理論であり、寡占的構造が常態化している現実社会では、規制緩和は寡占的企業への利益集中を促進し、経済格差を増幅するため、規制緩和は正当化されない。
農産物を買い叩き、消費者には高く売って差益を増やそうとする寡占的企業の行動を抑制するには農業協同組合に代表される共生システムが生産者と消費者の双方に適正な価格を提供する役割を果たすことが不可欠である。
本書は、具体的に農協共販によって、例えば、コメでは 1 俵約 3,000 円、牛乳では 1kg約 16 円の生産者価格向上効果が発揮されていることを新たに開発した計量モデルで実証した。
さらに、取引交渉力のパワーバランスを 0~1 の数値で示し、0.5 を下回っていると農業サイドが買い叩かれていることを示す指標を開発して、ほとんどの品目で数値が 0.5 を下回り、農協共販の効果はあるものの、それでも、まだ、買手側に有利な価格形成が行われていることを明らかにした。
この結果から、「農協共販により不当な利益を農協と農家が得ている」として農協共販を独禁法で取り締まるべきとする規制改革推進会議などの主張は間違っており、農協共販がさらに強化されることこそが有効であること、そして、本来は、小売部門の「優越的地位の濫用」こそが、独禁法上取り締まられるべきであることを実証した。
このように、本書は、農業協同組合の生産者・消費者への貢献度を数値で「見える化」することで協同組合研究に新たなステージを拓くとともに、規制改革推進会議からの農業協同組合への批判の間違いを数値で示し、本来あるべき政策の方向性を示唆した画期的な研究成果である。
【出版の経緯】
著者が農林水産省で行政に携わったのち、研究職に転じて農業総合研究所で開始した最初の研究が、生乳の価格形成メカニズムの解明であった。それを出発点として、九州大学、東京大学の学生指導と研究活動の中で、酪農協とメーカーと小売部門との取引交渉力のパワーバランスの数値化に取り組み、さらには、コメや野菜などの他部門も含めて、農業協同組合の価格形成における役割の数値による「見える化」の研究を蓄積してきた。
規制改革推進会議などによる農業協同組合批判が行われ、共同販売や共同購入が不当なものであるかのような主張が展開される中、著者の一連の研究成果の集大成として、本書を世に問うことにより、そうした批判の間違い・不当性を明確に数値で示すことが不可欠と判断し、本書をまとめ上げた。
3.授賞式の様子
以上









