なお、本研究成果は、2026年4月に製剤・DDS※1分野の国際学術誌 「Pharmaceutics」に掲載され、AIを活用した次世代型製剤設計技術として、その新規性と有効性が学術的に評価されています。
※1 Drug Delivery System 成分を目的に応じて届けるための製剤技術分野
■研究目的・背景
錠剤設計においては、飲み込みやすさ、輸送に耐えうる硬さ、体内での溶けやすさ、といった複数の物性を同時に満たす必要があります。しかし、これらの物性は互いに影響し合うため、最適な処方設計を導き出すには膨大な試作と試行錯誤が必要でした。
そこで本研究では、各物性を迅速に満足させる処方条件、さらには、より無駄のない最適解となる処方条件を導き出すことを目的に、錠剤設計AIの開発に着手しました。
■研究方法と結果
開発したAIは、過去の研究や製造データを学習し、サプリメントにおける錠剤の「飲み込みやすさ」、「輸送中に割れにくい硬さ」、「体内での溶けやすさ」といった複数の要素を予測できるようにしました。人の手では検討が難しい数千~数万通りの処方条件の組み合わせも、AIが高速かつ高精度に予測・比較検討することを可能にしました。
これにより、処方の最適な解を算出することによる品質の向上(より早く溶ける、より小さく飲み込みやすいなどの最適設計)、製品品質の安定化(担当者によらない一貫した設計品質の実現)、開発期間の短縮、さらに、原料ロス削減が期待されます(図1参照)。

図1. 製剤設計AIモデルのイメージ
■今後の展望
キリンは、グループ各社が持つ専門性や独自データを重要な競争力の源泉と捉え、それらをAIなどの先端技術と掛け合わせることで、研究開発の変革と新たなお客様価値の創出を目指しています。今回のファンケルとの取り組みは、錠剤設計における研究者の経験知をデータとして活用し、人とAIが共創することで、製品開発の精度とスピードを高めるとともに、飲みやすさや品質の向上など、お客様に実感いただける価値につなげるものです。今後も、グループ各社が保有する素材、処方、製造、品質評価などの独自データを活用しながら、「KIRIN Digital Vision 2035(https://www.kirinholdings.com/jp/innovation/dx/)」で掲げる「生産性向上」と「価値創造」の両軸を推進し、食から医にわたる領域での新たなお客様価値と社会価値の創出を目指します。
【掲載論文】
学術誌名:Pharmaceutics
論文名:Application of AI in Tablet Development: An Integrated Machine Learning Framework for Pre-Formulation Property Prediction
著者名:Masugu Hamaguchi、Tomoki Adachi、Noriyoshi Arai(ほか共著者)
掲載情報:Pharmaceutics (2026年、18巻4号、記事番号452)
【開発組織・担当者のコメント】
キリンホールディングス株式会社 R&D本部 キリン中央研究所
社内の研究発表会での出会いをきっかけに始まった今回の共同研究において、当組織はAIモデルの構築やアプリケーション開発を担いました。 一見シンプルに見える錠剤設計ですが、実際には非常に奥深く複雑な領域です。ファンケルの研究員との対話を通じて、錠剤設計に関する知見やノウハウの形式知化に取り組みました。さらに、原料の物性値や製造条件といった物理情報をAIへ統合することで、単なる概念実証に留まらず、実際の研究開発現場で実戦力として活用できるAIの構築を実現しました。今後も、AI活用の対象領域を広げ、さらなる価値創出に貢献していきたいと考えています。
株式会社ファンケル 総合研究所 機能性食品研究所 所長
足立 知基(あだち ともき)

私自身製品開発を担当していた際には、良い処方が見つかっても「さらに良い組み合わせがあるのではないか」という思いが常にありました。また、開発が難航した際には、「このまま検討を続ければ課題を解決できるのか、それとも別のアプローチに切り替えるべきなのか」と判断に迷う場面も多くありました。今回開発した錠剤設計AIはこうした課題を解決するものです。
今後はAIと人が共に考えることで、これまで以上に「やり切った」と自信をもって言える形で製品開発を完了できるようになります。さらに、AIで予測できる項目を拡張することで、より高品質で価値ある設計を追求し、お客様の期待に応えていきたいと考えています。









