明治大学(学長:大六野 耕作)農学部の中村卓教授と株式会社明治(代表取締役社長:松田 克也、以下:(株)明治)ら共同研究グループは、(株)明治のプレーンヨーグルトの独自製法「くちどけ芳醇発酵(特許第6937238号)」にて製造したヨーグルトについて、電子顕微鏡を用いた構造解析を実施した結果、通常のプレーンヨーグルトの製法と比べ、同等の組織強度を保ちながら、より緻密で太い構造が形成されることで、なめらかでしっかりとした濃厚感を実現していることを明らかにしました。当研究成果は、2023年8月31日に、乳業分野の国際学術誌 Journal of Dairy Researchに掲載されました。(Ichimura et al. Journal of Dairy Research, 2023, doi: 10.1017/S0022029923000523.)
「くちどけ芳醇発酵」は、通常のプレーンヨーグルトとは大きく異なる「超高温殺菌」と「脂肪微細化」を組み合わせた製法です。(株)明治の「明治ブルガリアヨーグルトLB81プレーン」(400g)、「明治ブルガリアヨーグルトLB81やさしい甘み」(400g)で使用されています。
【研究目的】
(株)明治は、同社の独自製法「くちどけ芳醇発酵」について、製造条件の変化が食感の変化を生み出す原因を明らかにするために、ヨーグルトのミクロ構造と物性との関連性について探索することを目的に中村卓教授との共同研究を行いました。
中村卓教授は、得意とする電子顕微鏡観察の技術を活かしてこのメカニズムの解明に貢献しました。
【研究概要】
殺菌温度と脂肪粒径がヨーグルトの物性・構造におよぼす影響を検証するために、4つのヨーグルト製造条件について構造解析・物性評価を実施しました。
【研究成果の活用】
(株)明治は、おいしさのメカニズムを明らかにすることでさらなるおいしさの追及に向けた知見を蓄積し、将来の新製法の開発に活用していきます。
中村卓教授は、食品のおいしさを食品構造から追究しています。特に、今回の方法論が加工食品のおいしい食感の実現の基盤となり、「おいしさデザイン」が進むことを期待しています。
論文内容
【タイトル】
プレーンヨーグルトのネットワーク微細構造に及ぼす超高温熱処理と均質化の影響
(The effect of high-temperature heat treatment and homogenization on the microstructure of set yogurt curd networks.)
【方法】
殺菌温度と脂肪粒径がヨーグルトの物性・構造に及ぼす影響を検証するため、4つの条件のヨーグルトを試作し、物性評価・電子顕微鏡観察を実施しました。
条件1.:95℃殺菌、脂肪粒径1.0μm程度(通常プレーンヨーグルト製造条件)
条件2.:130℃殺菌、脂肪粒径1.0μm程度
条件3.:95℃殺菌、脂肪粒径0.6μm程度
条件4.:130℃殺菌、脂肪粒径0.6μm程度(くちどけ芳醇発酵の製造条件)
【結果】
・130℃殺菌は物性をなめらかで柔らかくすること(条件2.)、脂肪粒径を小さくすることで組織をしっかりさせること(条件3.)がわかりました。
・「くちどけ芳醇発酵」の製造条件は通常のプレーンヨーグルト製造条件よりもなめらかながら、同等の組織の強さを付与することがわかりました(条件4.)。
・電子顕微鏡による微細構造観察の結果から、130℃殺菌はたんぱく質ネットワークを、細く緻密にすることがわかりました(条件2.)。一方で、脂肪粒径を小さくすることでたんぱく質ネットワーク自体が太い構造体になることを確認しました(条件3.)。(図2)
・電子顕微鏡観察の結果から、微粒子化(おおよそ0.4μm以下)された脂肪球がたんぱく質ネットワークに入り込み、疑似たんぱく質として構造の一部として働いていることを確認しました。(図3)
【考察】
・くちどけ芳醇発酵のなめらかでしっかりとした食感は、超高温殺菌の結果として得られる細くて緻密なたんぱく質ネットワーク構造に対し、微粒子化された脂肪球がたんぱく質ネットワークの一部となることで補強されたことがわかりました。
・粒度分布の解析結果から、くちどけ芳醇発酵の製造条件では、たんぱく質の体積に対し、30%程度の脂肪球がネットワークに入り込むことで補強し、たんぱく質の体積が1.3倍になったと推察されます。