「ビフィズス菌M-16V」などが、ヒトミルク由来オリゴ糖で増殖する悪玉(ウェルシュ)菌の抑制に寄与する可能性を確認~科学雑誌『Gut Microbes』掲載~…

掲載日: 2025年03月31日 /提供:森永乳業

ヒトにすむビフィズス菌論文数世界No.1(※1)の森永乳業

 森永乳業は、50年以上にわたり、人の腸内にすみ、様々な健康効果をもたらしているビフィズス菌の基礎研究を行っています。また2020年10月1日より開設している京都大学との産学共同講座「ヒト常在性ビフィズス菌(HRB)研究講座」※2において、ヒトの腸内に棲息するビフィズス菌(HRB)の機能に関する研究を行っています。 
 今回、潜在的に病原性を示す可能性がある悪玉菌の一種Clostridium perfringens(ウェルシュ菌)が母乳に含まれるヒトミルク由来オリゴ糖(HMO)の一種である2’-フコシルラクトース(2’-FL)を利用し増殖すること、この増殖を一部のビフィズス菌が抑制することを明らかにいたしました。
なお、本研究成果は、国際学術誌『Gut Microbes』に2025年3月18日に掲載されました※3。

1.研究の背景と目的
 母乳に多く含まれるHMOは、ビフィズス菌がエサとして利用することでその増殖を促すことが知られています。しかし、具体的にどのような腸内細菌が利用するのか、その全貌は明らかにされておりません。また、ウェルシュ菌は、乳幼児の腸内をはじめヒトの消化管に存在することがあり、状況によっては毒素を産生し得る細菌です。特に体力の低い幼少期やハイリスクな方々の腸内でウェルシュ菌が優勢になることは健康上の懸念があります。本研究では、HMOを利用する可能性がある悪玉菌を特定し、ビフィズス菌がその増殖や毒素産生を抑えるメカニズムを明らかにすることを目的といたしました。

2.研究内容と結果
(1)ウェルシュ菌の2’-FL利用と増殖
 2’-FLを唯一の炭素源とした培地で培養実験を行った結果、ウェルシュ菌は2’-FLを分解・利用し、増殖することが明らかになりました。


              図1:2’-FL 添加培地でのウェルシュ菌増殖(左)と2’-FL利用性(右)

 右図のスポットはその糖が培地に存在することを示しており、様々な菌株の培養で2’-FLのスポットが消えていることから、分解・利用されていることが分かります。2’-FLは乳幼児を含む健康な人にとって有益なオリゴ糖という認識が定着していますが、条件によってはウェルシュ菌のような毒素を産生し得る細菌にも利用される可能性があることが示唆されました。

(2)ビフィズス菌との混合培養によるウェルシュ菌の菌数低下および毒素産生への抑制効果
 次に、(1)と同様の培地で、ヒトにすむ様々な種類のビフィズス菌とウェルシュ菌を同時に培養した結果、一部のビフィズス菌がウェルシュ菌の増殖や毒素産生を強く抑制することが示されました。

 図2:ビフィズス菌とウェルシュ菌を共培養した際のウェルシュ菌の菌数変化(左)とビフィズス菌/ウェルシュ菌の比率

 中でもB. longum MCC10007がウェルシュ菌の菌数を最も低下させ、B. breve MCC1851(M-16V)が、ビフィズス菌/ウェルシュ菌の比率を最も高めることが示されました。

(3)作用メカニズムの解明
 複数のビフィズス菌株がウェルシュ菌の増殖抑制に寄与する可能性が示されましたが、中でも特に特徴的な挙動を示したMCC10007とMCC1851(M-16V)について詳しく解析を行いました。まず、ウェルシュ菌が2’-FLを利用して増殖している際に、ビフィズス菌が共存するとどのように遺伝子発現が変化するかを調べました。その結果、ウェルシュ菌がもつ毒素(αトキシンやパーフリンゴリジンOなど)の産生関連遺伝子(pfoA, cola, plc)の発現が著しく低下するとともに、乳酸の酸化経路に関わる遺伝子が上昇し、エネルギー産生が阻害される可能性が示唆されました。

         図3:ビフィズス菌とウェルシュ菌を共培養した際のウェルシュ菌の遺伝子発現変化

 左にいくほどビフィズス菌との共培養時に低下した遺伝子であることを示しており、緑で示した毒素産生関連遺伝子(pfoA, cola, plc)などの発現がビフィズス菌との共培養時に低下しています。
 一方、ビフィズス菌側の作用機序として注目されたのは、2’-FL利用に伴う“交差(クロス)フィーディング”の可能性です。たとえば、ウェルシュ菌は2’-FLを菌体外で分解するため、フコース(L-Fuc)やラクトース(Lac)が培養液中に遊離しますが、ビフィズス菌がこれらを効率よく取り込み、有機酸や代謝産物を産生することで周囲のpHや菌叢バランスを変化させ、結果的にウェルシュ菌を抑制すると考えられました。実際に、フコース利用に関する遺伝子(fumC, fucP)の機能を喪失させたビフィズス菌の変異株で共培養実験を行うと、ウェルシュ菌の生育抑制作用は減弱することが分かりました。

図4:フコースを代謝できないビフィズス菌変異株(fumC,fucP欠損株)とウェルシュ菌を共培養した際のウェルシュ菌の菌数(左図)と作用メカニズムの概念図(右図)

3. まとめ
 2’-FLなどのHMOは、健康なヒトにとっては善玉菌を増やす意義がある一方、特定の環境下ではウェルシュ菌のような菌にも利用されるリスクが否定できないことが明らかになりました。加えて、MCC10007やMCC1851(M-16V)をはじめとするヒトにすむ種類のビフィズス菌の一部は、2’-FLを資化するウェルシュ菌に対して特に抑制的に働くという重要な機能を持つ可能性が示されました。
 以上の結果から、HMOを摂取する際にはヒトに棲む種類のビフィズス菌と組み合わせることで、悪玉菌増加のリスクを低下させることができるのではないかと考えられます。今後も、森永乳業は京都大学との産学共同講座を通じ、HRBに関する学術研究をより一層推進してまいります。

※1 (株)ナレッジワイヤ調べ、2025年1月時点(PubMed・医中誌WEBにて企業による研究論文数で世界一)
※2 ヒトの腸内に棲息するビフィズス菌(Human residential bifidobacteria; HRB) と宿主であるヒトとの共生メカニズム
を解明し、我々の健康に密接な関りを持つプロバイオティクス素材が有する保健効果の分子機序(作用機序)解明に向けた取り組みを加速すべく、様々な研究発表をおこなっております。
URL: https://www.morinagamilk.co.jp/release/newsentry-3489.html
※3 「In vitro competition with Bifidobacterium strains impairs potentially pathogenic growth of Clostridium perfringens on 2′-fucosyllactose」
Aruto Nakajima, Aleksandr Arzamasov, Mikiyasu Sakanaka, Ryuta Murakami, Tomoya Kozakai, Keisuke Yoshida, Toshihiko Katoh, Miriam Ojima, Junko Hirose, Saeko Nagao, Jin-Zhong Xiao, Toshitaka Odamaki, Dmitry Rodionov, Takane Katayama

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