株式会社ロッテは「噛むこと健康研究会」(代表理事:松澤佑次)の理念に賛同し、活動に参画しています。この度、本会ホームページにて、第6回年会の講演動画(https://www.kamukotokenko.jp/)を2025年1月17日(金)~3月14日(金)までの期間限定で公開しましたので、お知らせいたします。本研究会は「噛むこと」と健康の研究実施と、その効果を世の中に広めていくことを目的として活動しております。第6回年会では、栄養学、歯学、医学、それぞれの視点から、年齢と口腔機能の関係、栄養摂取と噛むことの大切さ、脳神経系を介した咀嚼の健康効果などについてご講演いただきました。
ぜひ、この動画をご覧いただき、皆様の健やかな生活にお役立ていただきたいと考えております。
【第6回年会概要】
●日時 2024年11月15日(金) 13:05~16:35
●場所 シェラトン都ホテル東京(東京都港区)
●内容
・開会の辞 一般財団法人住友病院 名誉院長 松澤佑次氏
・講演1 咀嚼と食品・栄養摂取
東京科学大学 高齢者歯科学分野 教授 金澤学氏
・講演2 食べ物から噛む量を知るために-噛みごたえ表から 咀嚼回数ランクまで-
和洋女子大学 総合生活研究科 教授 柳沢幸江氏
・特別講演 咀嚼の減量効果は高々200~300g/日、されど-200~300g
-今、なぜ、咀嚼機能が重視されるのか-オーラルフレイルのエビデンスと新たな展開
大分医科大学名誉教授 坂田利家氏
・トークセッション
医科・歯科医療のDX現状と未来洞察
東京科学大学 高齢者歯科学分野 教授 金澤学氏
長野県茅野市DX構想責任者・医師 須田万勢氏
株式会社フィルダクト 代表取締役社長 金子奏絵氏
・閉会の辞 株式会社ロッテ 代表取締役社長執行役員 中島英樹
【開会の辞】
一般財団法人住友病院 名誉院長
大阪大学 名誉教授
松澤 佑次氏
噛むこと健康研究会は、世界的にも他に類を見ない「噛むこと」と健康にフォーカスした研究会です。近年、本研究会の皆様による精力的に研究、情報発信により、「噛むこと」に対する世の中の認識が徐々に高まっていると感じております。今回、第6回の年会開催となりましたが、特別講演でご登壇頂く坂田利家先生は「噛むこと」が脳神経内分泌系を介して、身体全体の代謝系に影響を及ぼすことを世界で初めて明らかにされました。その研究成果をお話し頂けることはとても意義深いと考えております。
また、今回「医科、歯科医療のDX現状と未来洞察」というテーマで、専門の皆様によるトークセッションの時間を設けさせて頂きました。これらの議論の中で、今後の取組に対する様々なメッセージが発信されることを期待しております。「噛むこと」の大切さに関する人々の認識は年々高まっており、本分野に取組む研究者の数も増えている様に思います。本研究会の皆様が中心となって、「噛むこと」の研究領域がさらに発展していくこと、そして「KAMUKOTO」が世界共通のワードになることを願っております。
【講演1】
咀嚼と食品・栄養素摂取
東京科学大学 高齢者歯科学分野
教授 金澤 学氏
<主な講演トピックス>
- 年齢を重ねることで、野菜類、果実類、魚介類の摂取量は増加し、穀類は微減、肉類は大きく減し、乳類は変化がないことがわかっています。食事内容の変化は低栄養につながる可能性があり、栄養状態の悪化が全身の健康に悪影響を及ぼします。
また、食品の選択は口腔内の状態ではなく、食習慣や知識、食事準備者に影響されることが明らかになっています。
- 年齢による口腔機能の変化として、咬合力は40代以降、舌圧やオーラルディアドコキネシス(舌口唇運動機能)は65歳代以降に低下する傾向があります。壮年期には舌圧が高い人は緑黄色野菜を多く摂取し、咬合力が高い人は肉類を多く摂取する傾向があるなど咀嚼機能と食品摂取の関係が明らかになってきています。
- 8020運動の成果で歯の喪失者割合は減少していますが、高齢化に伴い歯の喪失者数は増加しています。歯が20本以上の人と19本以下の人を比較した研究では、19本以下の人は果物、野菜、肉類、魚類、卵、豆類の摂取頻度が低く、砂糖や甘味類の摂取頻度が高いことがわかりました。また、フレイル状態の高齢者は動物性タンパク質の摂取量が少なく、タンパク質不足がフレイルを引き起こす要因となる可能性が考えられます。動物性タンパク質や野菜・果物をバランスよく摂取することで、フレイルのリスクが低減することも示されています。
- 義歯により咀嚼能力の向上は認められますが、食品摂取や栄養状態が必ずしも改善するわけではありません。肉類や魚類が食べにくくなったことが影響し習慣化されるためです。食事指導を行った結果、緑黄色野菜や肉類、ビタミン、タンパク質、ミネラル等の摂取量が増加しましたが、指導が忘れられ継続されない傾向が見られたため、定期的な指導を実施していく必要があります。
【講演2】
食べ物から噛む量を知るために
-噛みごたえ表から 咀嚼回数ランクまで-
和洋女子大学 総合生活研究科
教授 柳沢 幸江氏
<主な講演トピックス>
- よく噛むことを促す社会的普及活動のツールとして、咀嚼指標となる「噛みごたえ表」を作成しました。食品物性(かたさ・弾力性・凝集性)と咀嚼筋活動量を測定し、その相関関係を明らかにして、144食品を対象に咀嚼筋活動量を推定することで、食品を10ランクに分類しています。その後、この噛みごたえ分類は、噛みごたえ度と栄養摂取の関連性に関する研究や後期高齢者健康診査に活用されるなど、様々な応用研究が展開がされています。
- ベビーフードやえん下困難者用食品など、食べ物の形状や物性を調整しながら、咀嚼能力に応じて食物が作られている状況がある中、「噛む」ということから食品を区分することは大切だと考えています。しかし、「噛みごたえ表」は単一の食品レベルであり、食事分析としては不十分であること、新しい食品を追加できないことなどの課題があり、改善を試みることにしました。
- 新たにロッテとキユーピーとの共同研究で作成したのが「咀嚼回数ランク表」です。この表では、基準食品を設定し、平均的な咀嚼回数を持つ人を対象者とすることにしました。10gあたりの平均咀嚼回数を指標に10ランクに分けており、現在は142品目を記載しています。「咀嚼回数ランク表」は1.口腔内での咀嚼や唾液の影響を反映しやすい。2.被験者を基準化することで新規の食品を加えることができる。3.10gあたりの咀嚼回数を定めているため摂取量との関連も示しやすい。という点において、より実用的な指標となります。
- 今後、より多くの食品の咀嚼回数を分析し体系化することにより、食事記録から咀嚼量を把握することや、物性測定だけでは評価が難しい食品の咀嚼レベルを表示することなどが可能となると思われます。
【特別講演】
咀嚼の減量効果は高々200~300g/日、
されど-200~300g
-今、なぜ、咀嚼機能が重視されるのか-
大分医科大学名誉教授 坂田 利家氏
<主な講演トピックス>
- ‘Time to Say Goodbye to the B.M.I. ? ’ これは今年9月の The New York Timesに掲載された記事の見出しです。BMI(標準化された体重、具体的には皮下脂肪量と筋肉量を反映)はここ十数年来、病態や予後を判定する指標としては不適切とみなされるようになり、最近のことですがWHO, NIH, CDC, 主要国際学会・国際誌等々も不採用を宣言しました。
- ‘肥ること’ 自体を病気とみなし、BMIの減少を強く主張してきたのは、元来、アメリカ、ヨーロッパを中心とする諸学会で、この学説は長期にわたり堅持され、世界を席巻し、わが国も例外ではありませんでした。今、その鉄壁に亀裂が走り、崩壊しようとしています。
- 咀嚼の効果は、減量という指標で評価すれば、高々200~300g/dayに過ぎません。しかし、病態は明らかに改善します。実は、この一見矛盾と受け取られかねない結果に、脳機能を介した咀嚼の重要な働きが秘められており、さらには上記のようなBMI依存治療からの脱皮にも深く関わっています。
- 肥満症、そして生活習慣病が目指すべき治療の在り方、それは病態改善を見据えた僅少な減量(内臓脂肪・異所性脂肪の燃焼)であり、咀嚼ほどこの目的に適った手立てはありません。噛むという行為は神経信号を介してその作用が脳内に伝達され、生体機能(エネルギー代謝系、記憶学習系、免疫系、ホルモン調節、体温調節、睡眠覚醒、概日リズム等々)を制御する種々の脳機能を賦活します。興味深いことに、この制御系は生体の恒常性維持に関わるヒスタミン神経系によって調節されていることもわかっています。実は、この脳内ヒスタミン神経領域の研究がヒトゲノム解析に触発され、最近ではより詳細な研究成果、さらには未知領域への開発が急速に活発になり、そのイノベーション的成果は咀嚼の臨床応用にとって有益な情報源にもなると考えられています。
- 噛むという行為、それは脳機能を介して生体機能を賦活する唯一無二の重要な入力信号でもあるのです。本研究会ではこれまで咀嚼の重要性を終始発信し続けてきました。本講演を契機に、急旋回する学術的背景の明晰な理解、ひいては病態改善に及ぼす咀嚼の働きとそのしくみ、さらにはその治療的意義等々への認識がさらに深まり、噛むことの大切さが多くの方々へ普及することを願っています。
【トークセッション】
医科・歯科医療のDX 現状と未来洞察
東京科学大学 高齢者歯学分野 教授 金澤 学氏
長野県茅野市DX構想責任者・医師 須田 万勢氏
株式会社フィルダクト 代表取締役CEO 金子 奏絵氏
今年度のパネルディスカッションは「医科・歯科医療のDX 現状と未来洞察」というテーマを設定し、計3名のパネラーの皆様にご登壇いただき、それぞれのご専門の立場から以下の取り組みの紹介やご意見をいただきました。
- 医科・歯科医療のDX化の一例として、義歯加工技術や手技のデジタル化、歯科医療データ管理システムの導入、口腔機能管理におけるチェックアプリの導入などがあげられる。また、デジタル田園健康特区に指定された地域においては、地域の課題解決に向けた生活者の医療や介護データプラットフォームの構築・活用などの取組が進められている。
- 歯科業界における大きな課題は、データベース化が進んでいないこと。多くの歯科医院や歯科技工所は、依然として紙でデータ管理を行っており、診療に必要な様々なデータがデジタル化されていない。これを解決するために、クラウド上でデータを一元管理し、医療従事者が効率的にアクセスできる体制を整えることが求められている。
- 医療データはそれぞれの医療機関が管理しており、医療機関間の連携が乏しいのが現状である。厚労省においても、一部医療データのDX化の取組がなされているがその領域は限られたものである。先進的な医療情報を、どのような形で共有化すべきか、自治体や企業が協力してプラットフォームを作っていく必要がある。本格的にデジタル化が広まる10年後に向け、今から少しずつ準備を進めることが重要。
- 医療データのデジタル化に向けた大きな課題は、初期投資のコスト。高額な投資が必要になるため、複数の歯科医院や歯科技工所が協力して共同購入し、シェアリングを行うことでコストを削減する取り組みなどが必要となってくる。アメリカではそういった取組が進んでいる。
- 地方自治体は、デジタル化など新しい取り組みへの投資に積極的とはいえないが、データ収集のフィールドがある。大学は省庁との取組は進んでいるが自治体との連携は弱い部分がある。サービスを生み出すことに優れている企業には、大学と連携し、地方自治体のフィールドを有効活用して頂きたい。DX化については、地方自治体、地域の医療、企業それぞれにメリットがあることが重要であり、積極的に対話を重ねながら取組を進めていくことが望ましい。
【閉会の辞】
株式会社ロッテ
代表取締役社長執行役員 中島 英樹
本日の噛むこと健康研究会年会において、講演やトークセッションを通じて大変多くの学びを得ることができました。本研究会に参加いただいている先生方には、「噛むこと」に関するさまざまな研究成果を論文としてご発表いただいており、その成果はメディアに取り上げられる機会が増えております。近年、「噛むこと」に関する関心の高まりにより、今年の上半期には、テレビ、新聞、WEBメディアでの関連の記事の掲載数が約25%増加しました。さらに、須田先生がお話しいただいた通り、各自治体や都道府県歯科医師会との連携も強化されており、地域住民への啓発活動も広がりを見せています。私たちの直接の取引先である流通企業でも、店頭での啓発イベントを実施していただいており、4月からすでに90回以上実施されています。松澤先生のお話の通り、「噛むこと」に関する研究や活動が世の中に広がっていることを実感しています。我々も企業活動の中で「噛むこと」の推進や啓発を重要な軸に置いておりますので、この機運を逃さず、「噛むこと」を実践できる商品やサービスを展開するなど、これからもその使命を果たし、生活者の心身の健康に貢献できる企業を目指していきたいと考えています。今後とも、引き続きご指導・ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。
【研究会の様子】
【理事・アドバイザー・講演者】
前列左から
ロッテ社長:中島英樹、特別講演者:坂田利家
ロッテHD社長:玉塚元一、代表理事:松澤佑次
理事:水口俊介、理事:下村伊一郎
後列左から
アドバイザー:宮下政司、アドバイザー:小野高裕
アドバイザー:葛西一貴、講演者・パネリスト:金澤学
パネリスト:金子奏絵、パネリスト:須田万勢
講演者:柳沢幸江、理事:芦谷浩明
(敬称略)
【噛むこと健康研究会役員】
(五十音順)
【噛むこと健康研究会概要】
発足の経緯
近年、「噛むこと」と生活習慣病や認知機能などとの関係が解明されつつあります。それらはさらに様々なアプローチで研究され、新たなエビデンスが積み上げられています。同時に、そのような有益な研究成果を社会に発信することは、社会課題の解決にもつながります。こうした中で、医学、歯学、栄養学、スポーツ科学など多分野の研究者が集まり、「噛むこと」を通じて健康寿命の延伸及び生活の質の改善に貢献するため、2018年「噛むこと健康研究会」が発足致しました。
会の目的
下記の理念のもと、「噛むこと」と健康に関する研究の実施、情報・意見の交換を進め、噛むことの大切さを発信することを目的としております。
エビデンスに基づいた情報の発信により、人々に「噛むこと」の効果について正しく伝える。
健康に資する噛む回数の目安を設定し、「噛むこと」の効果を分かりやすく伝える。
健康へのメリットの高い噛み方、食品等の効果を検証し伝える。
活動・取組
上記目的を達するため、以下の活動を行って参ります。
「噛むこと」の実態調査研究、及び「噛むこと」の健康効果に関する基礎研究・介入研究
「噛むこと」と健康についての情報収集及び提供
「噛むこと」の効果を啓発する為の研究発表会の開催
その他、目的を達成するための活動や事業