株式会社電力シェアリングは、地域の脱炭素生産・販売者への継続的な支援を促す、環境省「デコ活」ナッジ実証事業に参加いただける自治体や事業者を募集いたします…

更新日: 2024年08月15日 /提供:電力シェアリング

脱炭素社会実現を目指す新しい国民運動「デコ活」の下、地域支援型事業の商用化を図る環境省ナッジ社会実証事業

株式会社電力シェアリング(本社:東京都品川区、代表取締役社長:酒井直樹)は、脱炭素社会実現を目指す新しい国民運動「デコ活」の一環として、地域の脱炭素生産・販売者への継続的支援を促すナッジ実証事業を、環境省の委託を受けて実施しており、この度、ご協力いただける自治体や農林水産業・加工品生産・流通・販売者等の募集を開始したことをお知らせします。

政府の取り組み

環境省の進める脱炭素社会実現を目指す新しい国民運動「デコ活」

デコ活」とは、「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の愛称であり、二酸化炭素 (CO2)を減らす(DE)脱炭素(Decarbonization)と、環境に良いエコ(Eco)を含む"デコ"と活動・生活を組み合わせた新しい言葉です。
環境省の「デコ活」紹介サイト: https://ondankataisaku.env.go.jp/decokatsu/

政府が、2024年5月に閣議決定した「環境基本計画」では、生産者が高い環境価値を持つグリーンな製品・サービスを販売する一方、消費者が、量的・価格重視から、質的・高付加価値を重視する価値観へと転換する「共進化」を提唱しています。

また、持続可能な地域づくりに向け、多様な主体の参加によるパートナーシップやネットワークなどの協働的な取組を通じて、お互いに学び合うことにより、地域コミュニティの課題解決力を高めていくことの重要性も謳っています。

環境省では、こうした脱炭素への取り組みへの市民の自発的な参画を促すために、2017年4月よりナッジ(英語nudge:そっと後押しする)やブースト(英語boost:ぐっと後押しする)を始めとする行動科学の知見を活用してライフスタイルの自発的な変革を創出する新たな政策手法を検証するナッジ実証事業を進めています。

募集の趣旨

株式会社電力シェアリングは、共同で受託する株式会社サイバー創研とともに、その社会実証実験のひとつとして、各地の農家・農園や、生産販売事業者の協力を得て、「地域支援型農業(CSA)」をGXでアップデートし、脱炭素野菜(ゼロベジ)や、規格外果実を使った加工品などを生産・販売する取り組みを、消費者がクラウドファンディングや、サブスクなどのP2P・D2Cで相対継続的に支援するモデルの有効性を検証する社会実証を開始しています。

今回の募集は、そこで得られた知見を基に、様々な地域やスタイルでの有効性を実証し、商用化への道筋をつけるためのものです。

趣旨に賛同いただき、社会実証実験に参加をいただける自治体・事業者の方は、当社ホームページのお問合せページにご連絡いただければ幸いです(ただし、実験参加には条件があり、全てのお問合せにご返信できない場合があることをご了承ください)。
参考:「地域支援型農業(CSA)」のアップデート
CSAとは
Community Supported Agriculture(CSA「地域支援型農業」)というモデルが、GX時代の新しい一次産業の在り方として世界で再び注目を集めています。

CSAは1980 年代にアメリカで最初に始まったとされ、現在では欧米を中心に世界的な拡がりをみせています。欧州では、ドイツ、スイス、イタリア、フランスなど22か国に広がり、アジアでも、台湾、韓国、中国では2000年代から取り組みが始まっています。

農研機構の『CSA(地域支援型農業)導入の手引き』には多くの事例が掲載されていて、食料・農業・農村基本計画においても、「「農」を支える多様な連携軸の構築」として紹介され、農林水産政策研究所は『事例調査にみるCSAと農業・農村の機能・価値との関係性』を出版しています。


農研機構の『CSA(地域支援型農業)導入の手引き』


CSAを一言でいえば、地域の農業を消費者と農家が、リスクを分かち合ってお互いに支え合う仕組みです。この分野の第一人者である、波夛野豪三重大学名誉教授は、著書「分かち合う農業CSA 日欧米の取り組みから」の中でCSAを「生産者と消費者がコミュニティを形成しながら有機農業を支える方法」と定義していおり、「消費者が生産者と一緒に生産のリスクを共有するだけでなく、みずから野菜の栽培、仕分け、引き取りなどに参加する例も多い」としています。

政府の最新施策との関係性

政府が今年5月に策定した環境基本計画では、「「物質的豊かさの追求に重きを置くこれまでの考え方、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活様式は問い直されるべきである。」との根本的な問題提起が示されており、今に引き継がれている」としています。

また、「持続可能な地域づくりに向けた対話を通じた協働取組の推進多様な主体の参加によるパートナーシップを前提とした効果的な協働取組を通じて主体同士が学び合うことにより、地域コミュニティの対応力や課題解決力を高めていく」ことを謳っています。

さらに、製品ごとの温室効果ガス排出量の「見える化」として、「「CFP:カーボンフットプリント」は、温室効果ガス排出量の「見える化」により、消費者が、脱炭素・低炭素の実現に貢献する製品やサービスを選択する上で必要な情報を提供する有効な手法であり、製品種ごとの CFP 表示に向けた業界共通ルールづくりを後押しするとともに、一定の統一的な基準に基づく認証の枠組みを整備する。また、ナッジ手法も活用した効果的な CFP 表示のあり方を実証するとともに、「デコ活」による消費者の行動変容を通じて、CFP の普及と、脱炭素の実現に貢献する製品・サービスの選択を推進する。」ことを謳っています。
CSAのDX化による社会実装

こうした政府の政策を具体的な生産活動に落とし込むために、CSAというパッケージをデジタル・SNS時代にアップデート(DX化)して、地域でのつながりを大事にしながら、生産者と消費者が、自発的な行動変容(ナッジ)により、一緒に持続可能な循環経済・社会を実現していく「地域循環共生圏」の実現への道筋を付けていくのが当社のナッジ実証事業のテーマの一つです。

例えば、クラウドファンディングや、「YoutubeやTickTok等のSNSで見つけた推し(インフルエンサー)の農家の商品サブスク(As a serivice)の活用」などで、CSAをDX化することが可能だとの仮説を立てています。

「脱炭素野菜を作ってもだれも買ってくれない」「脱炭素農業は儲からない」といった固定観念を、CSAーDXに社会性に訴求するナッジの手法を組み合わせて打ち破り、ショーケース化できないかと、当社では、全国の「カリスマ農家(食べチョクトップランカー)」や「自然農系Youtuber農家」などと連携して、様々な社会実証を行っています。

ご協力いただいた「CSAーDXインフルエンサー」の一人が、東京都瑞穂町で「きりり農園」を営む田口さんです。

きりり農園では、サポーター会員が年額数万円を前払いして、獲れた分をもらいます。規格品だけでなく、市場でははじかれ、捨てられてしまうB品と呼ばれる規格外の野菜も、きりり農園とサポーターの信頼関係の中で、有効に活用されています。

そんなきりり農園に賛同を得て、電動農機具を圃場に持ち込んだ太陽光パネルと蓄電池でCO2をゼロにする「ゼロベジ(TM)・ゼロ果実」の生産・現地直販実験を行い、その採算性を検証しました。小規模や露地栽培では、大規模・温室栽培に比べて、圃場ではエネルギーをほとんど排出しないので、CO2の完全ゼロ化を低コストで実現しました。

また、こうした取り組みを田口さんに「脱炭素インフルエンサー」として、フォロワーの方に発信していただき、皆さまの賛同を得ることができました。「ゼロベジ(TM)」を通じて、共通の価値観を醸成し、社会関係資本を構築し、「つながること消費」モデルを実践することができたと思います。


きりり農園に導入した再エネ設備



東京都下の自然豊かな「きりり農園」(東京都瑞穂町)


ナッジとの関係でいえば、当社が過去に行った別の再エネ農園でのクラウドファンディングの実証実験では、「互酬性」への訴求が最も有効ですが、特に男性高齢者には、「社会性」や「利他性」への訴求も有効との検証結果が示されています。



「顔の見える脱炭素野菜」で儲かる農業を実現する

私たちも「脱炭素野菜(ゼロベジ)は環境にやさしいので買ってください」と消費者にストレートに訴求しても、通常品に脱炭素化に必要な追加費用を含めた割高な値段を払って買ってもらう(WTP=Willingness to Payといいます)ことは困難であると考えています。

一方で、「社会の脱炭素化に向けて頑張っている農家(インフルエンサー)を支援したい」という社会性・利他性に働きかけて販売すれば、追加分を上乗せしても買ってもらえる(WTPを向上させられる)との仮説を立てて検証しています。

理屈でいえば、以下のαが追加支払い分で、qと掛け合わせたピンク色の面積が追加収入です。これが追加投資コストを上回ることができれば商用化が可能になります。


WTPを上げ、WTAを下げるモデル

さらに言えば、関係性の構築による追加余剰(嬉しさの値段)は購入者だけでなく、販売者にも期待できます。スーパーでの野菜の購入は、お互いに顔の見えない、値段勝負の一度きりの市場(しじょう)取引の繰り返しですが、推し農家からの購入や、フォロワーさんへの販売は、相対での継続的な市場(いちば)取引に近いと考えています。

例えば、昭和の時代には、「八百屋さん」や「魚屋さん」が店頭でお客さんと顔を合わせて販売をして、「顔なじみのお得意さん」には、「おまけにもう一個サービスしちゃうよ」とか、「お客さんなら、○○円にまけておくよ」といった値引きが普通に行われていました。

つまり、販売者にとっては現金収入以上の「うれしさ」といった価値が取引を通じてもたらされていると考えられ、上のグラフでは、βが「うれしさ」をお金に換算した値で、qと掛け合わせたブルーの面積が追加余剰です。それは販売価格(WTA)の引き下げにつながる可能性があります。

だとすれば、多少売り上げが減っても「お客さんに喜んでもらえる」のであれば、そちらの方がよいと考える生産者さんも一定数いらっしゃるのではないかとの仮説をたてています。
背景となる当社の考え(政府の見解ではなく、当実証事業での実施内容以外の内容も含まれていることにご留意ください)
今般のナッジ実証の枠内ではありませんが、同じようなことは、農業以外でも、例えば飲食業界でも成り立つと当社は考えています。

外食産業の最近の傾向として、都市部の駅に近い全国チェーンの店舗では、時給を上げてもバイトが集まらず、かといって客単価は上げられないので、店舗運用や収益確保に苦労されている話をよく聞きます。その一方で、多少不便でも、オーナーがこだわりの料理を提供する小規模な飲食店が増えていると感じます。外食業界では、「材料原価3割、人件費・店舗等費用が3割で粗利が4割」という「相場観」があります。

オーナーシェフの経営する飲食店では、儲け一辺倒ではなく、「美味しい料理をお客さんに食べてもらいたい」という気持ちでできるだけ原価率を上げることで、ネットで評判になり、高評価やコメントが付き、地図アプリでさらにお客さんが集まってくるので結果として安定した利益を確保できるという好循環が実現できているケースが増えているように感じられます。

「大量に生産して、長距離輸送(国外から輸入)して、販売して、捨てる」ことでGDPの引き上げだけを目指す経済モデルが行き詰まりを迎えている中で、地産地消・シェアモデルの方がむしろ経済効用が高まり(GDPにカウントされない分も含め)、持続可能な商売が成り立つ(ある意味で昭和の自営業を主体とするモデルへの回帰)のではないかとも当社は考えています。

こうした、ナッジを活用して社会性を訴求する、つながりを通じたWTPの上げとWTAの下げで、小規模であっても脱炭素商品・サービスの事業モデルが実現できるよう、当社では趣旨に賛同いただける皆さまのご協力をいただきながら引き続き実証を進めてまいります。
コミュニケーションを促し社会性に訴求するナッジモデル

2018年4月に閣議決定した第五次環境基本計画では、国連が掲げる「持続可能な開発目標」(SDGs)の考え方を踏まえた「地域循環共生圏」を提唱しており、今年策定された第六次環境基本計画もその原理を踏襲しています。

地域循環共生圏は「自立分散」(オーナーシップ)X「相互連携」(ネットワーク)X「循環・共生」(サステナブル)の3要素の掛け合わせで成立しています。




これは、アメリカの政治学者、ロバート・パットナム(Robert Putnam)が提唱した「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」、すなわち、「社会的な繋がり(ネットワーク)とそこから生まれる規範・信頼」であり、「共通の目的に向けて効果的に協調行動へと導く社会組織の特徴」の規範や目的を「環境保全」に適用したモデルとも解すことができると考えます。

例えば、「地域で脱炭素を進める生産者」がインフルエンサーとなって、コミュニティの規範・価値に即した商品やサービスを設計し、発信し、これが地域の共有価値(Community Shared Value(CSV))の核となって、商品とともに価値が伝播・拡散され、流通・販売段階で多くの人が共感し、共感が振幅し、フォロワーとしての消費者が商品購入という形で価値を享受し充足感を得るといった、ナッジ要素を組み込んだコミュニケーションモデルが考えられます。


生産者と消費者のコミュニケーションを促すモデル(当社作成)


こうしたコミュニケーションを活発化する手法として、クラウドファンディングがあります。

上記の生産者は、ある意味で革新的なプロジェクト(脱炭素商品の生産・販売)の企画者・実行者で、その発信力で共感を伝播・振幅・拡散し、支援者としての消費者にリーチし、寄付を集めていくという相似形をなしています。

従って、生産者と消費者のコミュニケーションを促し、CSAなどの地域支援型生産・販売モデルを確立するために、クラウドファンディングの有効性を検証する実証が考えられます。

クラウドファンディングで寄付をする動機としては、利他性(助けてあげたい)・互酬性(相応のリターンを得たい)・社会性(プロジェクトに参画したい)・自己実現等様々であり、行動インサイトの知見を用いてそれらに働きかけて、効果を確かめるというものです。

しかしながら、その際、典型的なクラウドファンディング・モデルの課題を考慮する必要があります。当社は、これまで数多くの農業関係者に、CSAの社会実装の可能性についてのインタビューを行ってきました。

まず、多くの関係者から聞かれる課題が、カリスマ性と企画力・実行力を持ったインフルエンサー農家は、農業人口のほんの一握りで、農協や市場流通をせずに、自身で販路を構築するのは一般の農家には極めてハードルが高いということです。

例えば、全国D2Cサイトのトップランカーである長野県のカリスマ農家にインタビューしたところ、毎日100件以上の注文があるのですが、その1つ1つに手書きのお礼状を書いて発送している。それは毎日数時間の労力がかかるが、インフルエンサーというのはそういうものだから苦にならないということです。普通の人にはなかなかできないことです。

一方で、それでも、一般の農家が努力して、商品を設計して、商品ごとに写真とコメントをアップしてECで販売したとしても、ランキングの上位にならず、顧客からの反応も少なく、思った以上に売れずに心が折れてしまうという話も伺いました。

また、別の話として、農業は毎年先行投資して、種を買い畑を耕しても、不作で売り物にならなかったり、逆に豊作で市場の値段が崩れ収入にならない等のリスクがあるビジネスモデルでありますが、だからこそCSAで先にお金をもらってリスクを消費者と分散させればよいのでは質問すると、「先にお金をもらっても、収穫できなかったらどうしようと不安になったり(収穫できなくてもよいという条件でお金をもらっていても)、申し訳ないという気持ちになりと思うと、落ち着いて農業ができなくなるので嫌だ」といった声や、「農家はプライドを持ってよい商品を送り出そうとしているので、B品(規格外品)を市場に出すのは理念に反する」といった声が聞かれました。

さらに流通事業者からは「B品が安値で流通してしまうと、消費者の胃袋の数は一定なのでA品が売れなくなってしまう」という声も聞きます。一方で、「消費者のB品を選別する眼力は非常に高い。朝、店頭にきゅうりを並べておいて、A品だが、少しだけ形状の違うA´品も前面に出し並べておいても、夕方になると見事に、そのA´品だけ売れ残っている。規格外品を流通させるのは至難の業」という話も伺いました。

従って、一握りの「トップランカー・カリスマ生産者」だけでなく、一般の生産者でも「売れる脱炭素商品」を企画・販売できるよう、一方で消費者にしても、それほど覚悟をしなくても、気軽にA´品を購入できるよう、様々なハードルを下げる努力がなければこのモデルの主流化はないと考えています。

例えば、クラウドファンディングの有効性実証を行うにしても、典型的なプロジェクトサイトをゼロから作って発信するよりも、例えば通常のECの購入ボタンの横に、「500円で応援、予約注文」といった導線を確保することで、消費者も販売者も心理的なハードルを下げることが可能であると考えます。

また、いきなり「1年を通じての会費制」を求めるのではなくではなく、まずは初見顧客には「購買者限定での、次シーズンの一回限り先行予予約」としたり、実店舗で何回か購買体験のある顧客にチラシ等で「サブスク」を進めるなどの手法を実施することも商用化に向けての検討課題であると考えています。

当社としては、引き続き第一線の生産・流通・販売現場のリアリティを直視して、ナッジモデルを組み込んだコミュニケーションモデルの社会実装に力を尽くして参る所存です。






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