コロナ禍の飲食業界への影響とニーズの変化
コロナ禍の2年間で、人々のライフスタイルは大きく変わった。テレワークが普及したことにより企業の宴会需要は減少し、反対に郊外店舗への需要が増えている。
「特に厳しいのは大箱の居酒屋など、若者や企業の宴会中心で利益を上げていた業態です。客単価が5,000円未満の大型店が最も苦しんでいます」
一方で、客単価が5,000円~1万円以上と高く、ミシュランの星を得ているなどの強みがある小規模店では、以前からお客様との繋がりを築いており、コロナ禍でも利益を上げているという。
顧客を「ファン化」できる店は強い
コロナ禍以前は景況感もよく、オリンピックムードの盛り上がりもあり、外食市場は堅調に推移していた。グルメ媒体に広告を打てば予約が埋まり、来店したお客様をどうさばくかが重要だった。ところがコロナ禍でそうしたトレンドは一変。今では「飲食店はお客様とのつながりをいかに築き、ファン化して運営できているか」が重要になっていると山川氏は語る。
「店舗をプラットフォームにしてお客様を呼び、バンドでいう『ファンクラブ』のような活動ができている店舗はコロナ禍でも好調です。単なるクーポンや安売りの案内だけではなく、たとえば会員制度があったり、お客様にしっかりお礼状を送ったり、新メニューの提案や試食会の開催など、お客様とのつながりを大切にしていた店舗にはファンがついています。オンライン、オフラインでのつながりを通してファンクラブの構築ができていれば、これからの7割の外食市場でも生き残ることが可能です」
店舗の「強み」を把握してお客様に価値ある情報として伝える
顧客をファン化するには、顧客に対して一方的に送りたい情報を送るのではなく、価値のある情報を提供できているかどうかが重要だ。
「日々、LINE公式アカウントやメルマガなどで集めた顧客に対し、お客様目線で必要な情報を送っているかが重要です。定期的に割引クーポンを送るだけではブロックされてしまいますが、自宅でも再現できるレシピや新しく入ったワインの案内、契約農園での活動など、お客様がどんなことを知りたいのかを軸に情報を発信すれば、自店舗への理解が深まり、ファン作りにつながります」
お客様に価値ある情報をアピールするにはまず自店の強みをしっかりと把握することが大切だという。実際に来てくださったお客様やスタッフに「なぜこの店に来てくれたのか」「うちの店の良い点はどこか」などの強みを具体的に聞くことで、客観的な意見を得ることができる。
たとえば「この店のオムライスは、チェーン店に比べてすごく美味しい。素材も他と比べてクオリティが高い」「オーナーの人間性や思いやりに惹かれてずっと通っている」など、お客様から評価されている強みが分かれば、自分たちがアピールすべきポイントが明確になる。スタッフを巻き込んで一緒に考えよう、と山川氏は語った。
近隣の競合や成功している店舗を徹底的にモデリング
飲食店の集客の改善には、競合や近隣店舗で成功している店舗を見つけてリサーチをすることも重要だ。自分の店と似たような業態・規模で、集客できている店舗の成功要因はどこか。きちんと視察に行き、その店がどんな宣伝をしているのか、お客様の情報をどうやって集めているのかをリサーチする。
「繁盛店は、プロモーションから来たお客様がずっとリピートしてファンになっていく流れを作ることができています。それをモデルとして学ぶことが大切です。たとえば接点時間や接点回数が自分のお店に比べて多いなら、同じことをやってみましょう。そのお店がネットやSNSに力を入れているのに、自分の店はエゴサーチしても出てこないならもっとネット戦略に力を入れる必要があります。基本的なところから確認して、モデリングしましょう」
繁盛店をいくつか分析するだけでも、集客の手法はさまざまであることが分かる。ぐるなびや食べログなどの有料媒体からGoogleの口コミ、InstagramやFacebook、TwitterなどのSNS、ポスティング、出勤する方々にハンディング(チラシ配り)してお店を認知してもらうなど、多くの手法があるが、どれを選ぶかは最終的に自分たちで判断しなければならない。
そのためにも近隣店舗を分析し、モデリングすることが重要になる。特に閑散期など、時間があるときこそ成功している近隣店舗の分析に取り組みたい。マーケットに顧客が戻るまでの準備期間として、分析と改善を続けよう。
「近隣店舗のモデリングを全くせずに、いきなり大きな資金を投じて有料媒体に広告を出しても、集客につながらないことはよくあります。自店舗と同じようなサイズで同じような業態で、近隣の成功店舗はどういうプロモーションしているのか。しっかりリサーチをして、競合を参考にしながら集客に繋げましょう」
そうして集客した顧客に対し、冒頭でも述べたように強みを軸とした情報発信やつながりを大切にしていくことで、自然とファンはできていく。お客様やスタッフに強みを聞き、明確化してさらに良くしていこう。スポーツと同じで、ゴルフなら自分と同じ体格の人がどんなスイングをしているのか、どういう戦い方をしているのかをまずは学び、毎日トレーニングを繰り返すことが必要だ。
根性論のマネジメントからの脱却
山川氏は「一般社団法人これからの時代の・飲食店マネジメント協会(これマネ)」の代表理事として、スタッフの教育をDXで支援する活動を行っている。根底にあるのは「飲食店経営を教育から変えたい」という想いだ。DXで集客や顧客管理、現場の改善などが進み、店長がクリエイティブな仕事に力を発揮できるようになれば、飲食店は変わる。飲食店経営は、現場の働き方改革から始まるといっても過言ではない。
ポストコロナでは以前の7割市場ともいわれている外食分野。顧客と関係する現場スタッフのためにも、経営体制を根本から変えていきたいところだ。
プロフィール
山川 博史氏
1971年長崎生まれ。23歳で飲食業界に入り、27歳で創業。現在は複数の会社経営に携わり、一般社団法人これからの時代の・飲食店マネジメント協会の代表理事、一般社団法人レストランテック協会の顧問を務めている。
代表的な著書には「脱・ど根性経営! これからの飲食店DXの教科書」、「お客様に選ばれる!これからの飲食店 集客の教科書」などがある。
公式ホームページ:https://www.yamakawahiroshi.com/
一般社団法人これからの時代の・飲食店マネジメント協会(これマネ):https://koremane.com/