コロナ時代に生き残る条件は、事業規模の大小ではない
営業自粛が迫られた緊急事態宣言下で、テイクアウトやデリバリーに取り組んだ飲食店も多かった。ただ、「周りに合わせてはじめたという、“とりあえず”では事業として残らない」と二杉氏は指摘する。
「たとえばデリバリーサービスを利用する場合、宅配分の手数料を売価に乗せることになります。『値段の割にこれ?』とユーザーががっかりするメニューではリピートされず失速します。大手チェーン店の場合は手数料すべてを乗せないやり方をしていますが、簡単にいえば、体力のある店とない店は戦い方がはっきりわかれるのです」
飲食ビジネスは粗利率が低くても損益分岐点を超えるなら営業を続けたほうが良いという二杉氏。売上があっても損益分岐点が高ければ生き残るのは難しくなるし、家賃が安い、人件費がかからないといった身軽なモデルは乗り越えていける可能性がある。
「つまり生き残る店とそうでない店の本質は、規模の大小という単純な議論ではありません。過激な言い方になりますが、最善を尽くしたとしてもすべての店が生き残る時代でもなく、撤退も含め、まず骨子の再設計をどう考えるかが重要です。
立地や環境に対し選択しているビジネスモデルへどんな修正が必要なのか把握するのが前段階。それが固まってから、集客のためのマーケティングを考えていくのが経営立て直しの流れです」
売上を取り戻した事例を考え方のヒントに
飲食店経営の根幹を大きな観点でいえば、「ツキのある立地」にシフトすることだという二杉氏。ここで言う「ツキのある立地」とは、何をやるにしても人が集まりやすくうまく行きやすい立地を言う。
地方のロードサイドや、居住者の多い郊外の駅前商圏がそれに当たる。オフィス街や繁華街、観光地にはまだ人が戻っていないが、「ツキのある立地」ではすでに、前年同月比を超える売上を出している店舗もある。
ただ、立地は簡単に変えられるものではない。集客の戻りが遅い立地はツイテルターゲット、ツイテル業態、ツイテル販売チャネルをうまく組み合わせて事業構造を修正することが必要になる。
「今のこの環境下でどんな客がターゲットとして動くか、利用動機は何か、たとえば団体客は無理だから、少人数とか。夜遅い時間は難しいのでランチをやろう、自宅の夕飯需要をテイクアウトでとろうと戦略が立てられます。基本的には安い業態、接客を伴うフルサービスの業態よりクイックな業態が今は強いですね」
自粛ムードと感染防止策で最も影響を受けている業態は総合スタイルの居酒屋ではないかという二杉氏。それでも新たな感染者が日々確認されている東京都心部ではない、ローカル商圏の路面店は可能性がある。
「損益分岐点を超えて売上が戻ってきているところは夜の販促ができますが、そうでないなら昼はランチ対応し、夜は酒場といった二毛作化は必要だと思います。
ふらっと入れる大衆酒場などカジュアルな業態は客足の戻りも早いですね。心理的にも居酒屋で本格的に飲むのはまだ気がひけるが、食事のついでにちょっと飲むくらいなら、という傾向がみられます。
地方の駅前商圏の例では、食事を来店動機とするラーメン店が、夜はラーメン酒場にチャレンジし、アルコール需要を取り込んでいます」
二毛作の場合は昼と夜で「のれん」を変えるのがコツだという。ラーメン酒場であれば、昼はラーメン屋、夜は餃子とビールを訴求するようなデザインといった具合だ。看板を変えるよりローコストに視覚的な効果を得られる。
隠れ需要を狙った集客法
一方で空中階や地下店舗、予約した上で来店するような店舗はまだ厳しい。しかしそういった店でも「かくれ歓迎会」のような需要が潜在的にあるという。例えば4月にまったくできなかった歓迎会を、4人程度の少人数で集まって軽く飲むといったケースだ。もちろん密を避け感染対策を徹底しての需要取り込みの挑戦だ。
地方でも県庁所在地などの中心部では、中小企業が経済を動かしている。そこで居酒屋・大衆酒場などは半額キャンペーンを打ち、FAXでチラシを送って集客するといった取り組みをしているという。
「キャンペーンは、店舗の感染防止対策の取り組みも同時にPRすると良いです。特に自粛が解除されて1ヶ月という緊張感の中で、感染リスク回避の周知は必要です。消毒や換気、間仕切りに従業員のマスクなどで、感染防止に配慮したお迎えをしていることを伝えましょう。
集客の観点からも、『外食で自粛疲れを吹き飛ばそう』と思う客の背中を押すのは、『お越しになっても大丈夫です』という感染防止対策の安心アピールです」
焼肉店が精肉販売して、売上前年比アップの例も
地方のロードサイドに視点を移すと、週末はファミリー層がイートインを再開した店舗に食事目的で向かっている。
ある焼肉業態の店舗の場合は、店内営業自粛中に、テイクアウトでの弁当販売に加え、新たに免許を取得して精肉販売をスタート。緊急事態宣言下で複合化した販売チャネルとイートインの合算で前年同月比を超える売上を得ているという。
「事業戦略における選択と集中では、伸びる事業に集中させるのがセオリーです。しかし、伸ばそうとしていたマーケットで突然ビジネスのルールが変わる場合があります。コロナ禍に限らず過去にもBSE、鳥インフルエンザ、震災、O-157、法改正といったインパクトがありました。
焼肉が主力の物語コーポレーションは、BSEの時に『丸源ラーメン』を生み、今やもうひとつの主力ブランドに成長しました。もともと郊外型焼鳥店だったトリドールも、鳥インフルエンザで『丸亀製麺』にシフトしました。業態開発によるリスク分散について、これを機に考えてみるべきでしょう」
さらに、国を挙げて推進してきたインバウンドは、どんなに早くても1年は需要が戻らないと見られている。近年インバウンドで成長してきた店舗は、ターゲットシフトして業態転換するようアドバイスしているという。
「インバウンド向けに神戸牛を提供していたステーキ店の場合は、神戸牛を通販にシフトさせました。また、インバウンド以外の顧客も日常使いできるよう、神戸牛ラーメンの専門店を新業態として開発しています。
また、大手チェーンでは撤退報道が相次いでいますが、居酒屋企業のワタミは居酒屋の撤退を進める一方で、郊外ロードサイド立地に焼肉店を新たに開発したり、唐揚げのテイクアウト店舗を増やす方向に舵を切ろうとしています」
<総まとめ>事業を継続させる飲食店経営のありかたを考える
緊急事態宣言が解除されたとはいえ、多くの飲食店では賑わいをすぐに取り戻せるわけではない。もともと6月は閑散期で、通常ならマーケティングコストをかけていない店舗も多いだろう。だが経営立て直しのカンフル剤として、二杉氏は強めの販促を勧めている。
「基本的には夏休み期間はローカル商圏では需要期になります。感染防止に取り組みながら、6、7、8月はキャンペーンを組んで告知活動していきましょうとアドバイスしています。
飲食店経営は店舗をつぶさないことがゴールです。BCP(事業継続計画)を立案し、大きなリスクに際し、どうやって乗り越えていくか。こんな時だからこそ、経営資源の体重のかけかたなどを改めて見直してみましょう」
株式会社船井総合研究所
お話:フード支援部 部長 二杉明宏 氏
同志社大学大学院法学研究科卒業後、2000年、船井総合研究所に入社。飲食業専門コンサルタントとして、10以上の業種で活動。業態開発、新規出店、多店舗展開などを得意とする。ローカルチェーンからナショナルチェーンまで、支援先企業は年商1億~700億円と幅広い。