飲食・宿泊2014.10.14

ムスリム対応の鍵は情報開示

2014.10.14

中村直子

中村直子

今回は飲食店やホテル内レストランが、ムスリム(イスラム教徒)向け対応として、まず取り組めること「食の情報開示」について紹介します。

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今回は飲食店やホテル内レストランが、ムスリム(イスラム教徒)向け対応として、まず取り組めること「食の情報開示」について紹介します。

目次

曖昧な飲食店のハラール認証

前回のコラムで、ムスリムには生活全般の基盤となるハラール(イスラム法で合法とされるもの)とハラーム(イスラム法で非合法とされるもの)があることをお伝えしました。イスラム圏では、イスラム識者らによる機関がハラールであることを認める「ハラール認証」という認証制度があり、ムスリムの選択の目安になっています。認証制度発祥の国マレーシアでは飲食店店頭にハラール認証を掲げるのはごく一般的なこととなっています。

日本でも最近ハラール認証を掲げる飲食店が少しずつ増えてきました。これはムスリムが安心して利用できるというお墨付きをもらった!ということになるのですが・・・中にはアルコール飲料やイスラムで認められた処理を施していない肉(ノンハラールミート)を提供しているにもかかわらず自称ハラールを名乗っている飲食店が散見されとても残念です。 

情報提供方法1・絵で知る情報、ピクトグラム

ピクトグラム・外国語併記メニューの例

では、認証に頼らずムスリムの方に安心して食事を提供できる方法はないのでしょうか。前回も述べましたが、ムスリムは個々に判断基準を持っています。ハラールかハラームかを判断するために有益な情報を提供できれば、ムスリムたちは自分の判断で選択することが可能になります。

そのひとつの方法として、メニュー表示の工夫が挙げられます。例えばピクトグラム(絵文字を用い情報や注意を示すサイン)を取り入れることも有効です。街のレストランはもちろんの事、ホテル内レストランの朝食ビュッフェにこの表示があるととても助かります。ビュッフェの場合、表示だけでなく料理の配膳でハラールコーナーを設けることも必要です。ただ、このピクトグラムは食物アレルギー患者のための表示として取り入れられている場合が多く、ハラールミート情報や調味料等の情報提供という面では、ムスリムにとって充分ではありませんから口頭での説明や予備情報が必要となります。

情報提供方法2・メニューの英語表記

ピクトグラムのほかにメニュー表記に取り入れることが出来る方法として英語表記があります。これはムスリムに限らず、来日した外国人の食に対するリクエストでもっとも多いものです。みなさんも海外旅行先でその国の言葉で書かれたメニューで困った経験はありませんか。その経験から、英語表記を取り入れることでメニューがわかりやすくなることは理解し易いと思います。ムスリム対応として見た場合、メニューだけでなく使用している食材や調味料が補足されていると、ムスリムは安心して選ぶ事ができます。

注意!「ポークフリー」表示の落とし穴

このほかに「ポークフリー」「アルコールフリー」の表示を取り入れるというものがあります。ただここには、豚が禁忌ならポークフリーの表示を掲げればいいのではないかと考えてしまう落とし穴が存在します。

禁忌とされる豚を使用したメニューではないという情報を提供しているのに「なぜ?」と首を傾げたくなるのも無理はありません。しかしムスリムにとって豚がハラームであるという意味合いは奥が深く、豚由来成分も禁忌ということであり、豚由来のゼラチンや動物性油脂もハラームであるという事です。また豚カツを揚げた油でハラールチキンを調理したら、それはすでにハラールではないということを理解しなければなりません。ポークフリー、アルコールフリーと店頭やメニューに掲げる事はムスリムにとって一つのお店選びの目安にはなりますが、その場合ハラールの正しい知識を持ったスタッフがいるということが大切になります。

以前ポークフリーを掲げるレストランで、豚由来品を含まないかを確認したところ「豚は使用していない」の一点張りで、逆に心配になりました。詳しく調味料の確認までお願いすると、ポークエキスやゼラチンなど豚由来のものが数多く使われており、ポークフリーとは名ばかりであることがわかりました。レストランは意図せず嘘をついていたことになってしまいましたが、このような対応のところは多いのです。

豚由来の可能性が高い食品原材料使用食品例
ラード調味料、液体スープ、冷凍食品、マーガリンなど
ゼラチン粉末スープ、ゼリー、プリン、ムース、ババロア、キャンディ、キャラメル、マシュマロ、あられ、可食フィルムなど
乳化剤調味料、てんぷら粉、ピザ生地、パン粉、ケーキミックスなど
ショートニングコロッケ、シリアル、ビスケットなど菓子類、ホワイトソースなど
ポークエキス粉末スープ、調味ソース、調味料など
グリセリン着色料、香料、消泡剤を使用した豆腐、パンなど
豚由来の可能性が高い成分・物質製造過程に使用されているものの例
砂糖(豚骨焼成による活性炭を精製に使用)など
L-ステイン香料、パン、豆腐凝固剤、中華麺用かんすいなど

これらは豚由来の可能性がありますので、表示作成時にはメーカーに問い合わせるなどしてください。

何よりも知る事が大切

私個人としては、飲食店のハラール認証取得を必須とは思っていません。地域や国の状況にあわせてハラールの対応の基準を策定した「ローカル認証」を定めようという動きがありますが、認証を与える立場からすると、非イスラム圏の日本国内だからハラール認証の基準を緩くしてもいいという風潮は違うのではないかと思います。ハラールにはそもそもローカルもグローバルもありません。ハラールはハラール、それでしかないのです。基準の緩い認証制度を取り入れるよりも、個々に判断できる環境を整える、十分な情報を開示する事こそ大切だと思います。

また、飲食店はそれができるだけの正しい知識を持つ事が重要なのです。そのためにはまずムスリムを知る事、それが第一歩と考えています。一つ一つの対応を、まず出来る事から取り入れることで「あのお店はムスリムでも安心して食事が出来る」「対応が良い」と評判が広まり、ムスリムがムスリムの顧客を呼び込んでくれます。それだけムスリムネットワークは強く、ハートを掴めば熱心なファンになってくれることうけあいです。ただし「美味しい」が必須であることは日本人とかわりません。

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