「多くの大手メーカーさんの商品との違いは何かというと、時間と手間をかけ、材料を一から調理している点です。一般的な業務用カレーは一次加工された材料をスパイスや調味料と合わせて作るのが主流ですが、弊社は野菜一つとっても毎日フレッシュなものを切るところから始まるんです」
例えば玉ねぎなら、自社工場でカットしたあと、最適な火加減、時間で丁寧に炒め、他の素材と合わせていく。これが素材ごとに行われるとなれば、当然、加工された材料を一気に混ぜ合わせて作ったものとは、まったく違う味になる。
この工程の細かさが、エム・シーシー食品の強みになっている。つまり、忙しい飲食店の現場に代わって、時間のかかる調理の工程を同社が一手に担っているというわけだ。プロのシェフなどからも、「こんなところから手をかけてるのか」と驚かれることもあるという。
「その分、コストもかかります。決して効率的ではないやり方かもしれませんが、それがないとエム・シーシーの商品としての味が出せないんです」
もちろん取引先はそこに価値を見出してくれる相手に絞られる。
「エム・シーシーにしかない商品の良さを実感したうえで、さらにそれを高めていただけるお客様に応えていくことが我々の役割です。要は“値段以上の価値”を感じていただけるかどうかですね。分かりやすい市販品のレトルトカレーで例を挙げると、うちで一番の売れ筋のカレーは400円を超えます。それを買って食べていただいたお客様に、『これで400円は安い』と感じていただける自負はあります」
業務用ならでは。データではなく実体験を通じた商品開発
相対的な価格ではなくクオリティでお得感を感じてもらいたい。そんな思いが込められた商品は、どのようにして開発されるのだろうか。
「新幹線の食堂車に採用された時代と今とでは、経済力も市場の状況も違うので一概に比べられませんが、商品開発という意味では今の方が難しいと思います。食のシーンが非常に多様化している中で、一つひとつテスト的にやっていくしかありません」
現在の多様化された食シーンに、手探りで立ち向かうモノづくり。さらに、業務用食品としての難しさがある。
「情報網が発達した現代では、POSデータの分析やアンケート調査などで市場の動向や消費者の嗜好を知ることができます。でも、それは市販品の世界であって業務用ではそういった手段がほとんどありません。つまり、何が求められているか、何が売れそうかという情報は自分たちで手探りを繰り返しながら実体験として感じるしかないんです」
確かに、メーカーが業務用食品を卸業者へ納めた後の商品動向を掴むのは不可能に近い。ましてや、集積したデータによるマーケティングが出来ないとなれば、自分たちの実体験を通じて情報を得るしかないのだ。
「とにかく実際にお店へ行って、『なぜこのお店は人気なのか』『なぜ女性客が多いのか』などを確かめます。もちろん新聞や雑誌、テレビなんかも参考にはしますが、やっぱり自分がその場に行って実体験しないと説得力がないですし、具現化するのは難しいですから」