株式会社リクルート(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:北村吉弘)の観光に関する調査・研究、地域振興機関『じゃらんリサーチセンター』(センター長:沢登次彦)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の旅行業界への影響度を旅行者の視点から測り、地域および宿泊施設を主とした今後の回復期に向けた具体的施策の立案に役立てていただくために、「新型コロナウイルス感染症による旅行市場への影響」調査を2020年3月より継続して実施しており、最新の結果とともに調査内容をご報告いたします。
■調査トピックス
新型コロナウイルス感染症の感染拡大から約1年が経過、その後も旅行意欲は高い水準を維持
2021年3月の緊急事態宣言解除後の旅行意向は、混雑を避けた県内または近隣県の旅行に着目
〇2020年3月から2021年3月までの旅行意欲は、40%から60%の範囲を推移しており減少は見られなかった。
〇数カ月以内の旅行の意欲については近場(県内または近隣県)を希望する傾向が特に強い。
旅行意向者は、旅行先に対して基礎的な感染対策と情報開示に加え、混雑の回避を強く求める
〇旅行先施設の従業員のマスク着用や消毒の実施等の基本的対策など、感染拡大防止対策に関する情報公開については、新型コロナウイルスの影響が意識されるようになってから高い要求が継続、直近ではさらに高まっている。
〇旅行の検討時には、人の多い所を避けたいという要望が直近でも59.7%と最も多い。
〇今後感染状況が収束傾向の場合も、感染症対策と混雑の回避の重視はしばらく継続の可能性がある。
■調査概要
調査目的
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の旅行業界への影響度を旅行者の視点から測り、地域および宿泊施設を主とした今後の回復期に向けた具体的施策に役立てる
調査対象者
マクロミル会員モニター20歳以上 1,652人
性別および年代(20~30代/40~50代/60~70代)による均等割付を実施
調査時期
第6回:2021年3月23日(火)~2021年3月24日(水)
(過去の調査の調査時期)
第1回:2020年3月19日(木)~2020年3月20日(金)
第2回:2020年3月26日(木)~2020年3月27日(金)
第3回:2020年5月15日(金)~2020年5月16日(土)
第4回:2020年10月30日(金)~2020年10月31日(土)
第5回:2021年1月13日(水)~2021年1月14日(木)
第6回調査における回答者のプロフィール
※宿泊を伴う国内旅行は、新型コロナウイルス感染症が広がる前の2020年2月以前の1年間(2019年3月から2020年2月)の回数
■新型コロナウイルス感染症の感染拡大から現在(2021年3月)までの旅行意欲の推移
旅行意欲の減少は見られず、旅行意向者は日々の感染状況を考慮し旅行内容を検討
これまでの調査結果から、新型コロナウイルス感染影響下の旅行意欲について、時期ごとの変化を分析した(図1参照)。その結果、「旅行に行きたいが様子を見ている層」(緑色)はどの時期も最大であることが分かった。また「予定をしており、気にせず行く層」、「予定をしており、気を付けながら行く層」、「旅行に行きたいが様子を見ている層」を合計した「旅行意欲あり層」(赤の破線)は40%から60%の範囲で推移しており、旅行意欲そのものは新型コロナウイルス影響拡大期から現在に至るまで減少していない。
「予定をしており、気を付けながら行く層」(オレンジ色)は、緊急事態宣言解除時の7月~12月の時期(Go Toトラベルキャンペーン実施期)に増加、2度の緊急事態宣言発令時期は減少していた。「予定をしており、気にせず行く層」(黄色)はいずれの時期も少数派だった。旅行意向者は感染状況を考慮し安全に配慮したうえで柔軟に旅行意欲を制御していることが分かる。ワクチン接種の拡大等も影響し感染状況の収束傾向が明らかとなった場合に、旅行意欲はあるが実施を控えていた層が、気を付けながら旅行実施を徐々に再開していく可能性が考えられる。
Q.今後のレジャーの計画についてお聞きします。新型コロナウイルス感染症拡大を受けて、現時点でのお気持ちに近いものをお選びください。※複数予定しているものがある場合は、直近で予定しているものについてお答えください。【国内宿泊旅行】(全体/単一回答)
[図1]
※各項目は以下の回答を合計した
・予定をしており、気にせず行く層:「予定をしており、気にせず行く」
・予定をしており、気を付けながら行く層:「予定をしており、気を付けながら行く」
・旅行に行きたいが様子を見ている層:「予定をしていたが、延期した(したい)」「予定をしていたが、どうするか考えている」「予定はないが、事態が落ち着いたら行きたい」「予定はないが、むしろ積極的に行きたい」
・旅行をキャンセル・しばらく行かない層:「予定をしていたが、キャンセルした(したい)」「予定はないが、気になるのでしばらく行くつもりはない」
・コロナ禍に関係なくもともと行かない層:「新型コロナ感染症に関係なく、もともと行きたいと思わない・機会がない」
・分からない:「わからない」
※いずれの調査もn=1,652
※第1・2回調査はいずれも同じ月内(2020年3月)に行ったため、第2回調査データを利用した
■2021年以降の旅行希望が高まる時期
国内宿泊旅行の希望者は2020年のコロナ禍の経験をふまえ、2021年夏以降の旅行再開に期待か
2021年3月期(第6回調査)の今後の旅行実施予定は、秋(2021年9月~11月)に旅行を希望する割合が29.1%と高い傾向だった。2020年の秋はGo To トラベルキャンペーン実施時期だったこともあり、2021年についても旅行可能な時期かもしれないとの期待が表れている可能性もある。
冬季(12月~2022年2月、年末年始を除く)に旅行を希望する割合は13.9%と低く、2021年冬季の旅行が難しいと考えている傾向も見られる。
旅行意向者は2020年の感染状況を念頭に置き、ワクチン接種や感染状況を鑑みながら、比較的安全な時期を予想して旅行計画を考えているのではと考えられる。
Q. 国内宿泊旅行についてお聞きします。今後、国内宿泊旅行に行くなら、いつ頃行きたいと思いますか。あてはまるものをお選びください。【国内宿泊旅行】(いくつでも)(コロナ禍に関係なくもともと行かない層を除く/複数回答)
[表1]
※第6回調査(2021年3月)データ
■希望時期別の近場・遠隔地への旅行意欲
直近から2022年春以降までの旅行希望は、近場を選択する傾向が高い
2021年秋(9月~11月)以降では時期により、遠くへの旅行にも期待が高まる傾向に
希望時期別(国内宿泊旅行)の今後の旅行意欲は、「近場(県内または近隣県への旅行)」の意欲が「遠隔地(近隣県より遠くへの旅行)」の意欲よりも高く、2021年秋(9月~11月)以降の旅行希望は「遠隔地」への意欲が、「近場」に比べて相対的に高まる傾向が見られることが分かった。
Q. 国内宿泊旅行について、今後旅行意向のある方にお聞きします。どのような旅行に行きたいと思いますか。時期別にお答えください。(いくつでも)(コロナ禍に関係なくもともと行かない層を除く/複数回答/旅行先に関する回答のみ抜粋)
[図2]
※第6回調査(2021年3月)データ。コロナ禍に関係なくもともと行かない層を除いたものを母数(n=1,431)として、当該項目を選択したものを除して%を算出。
※「県内または近隣県への旅行」は、「居住地の都道府県内の旅行」「居住都道府県の近隣(隣接)県への旅行」の選択肢のいずれかまたは両方を選択したものの割合。「近隣県より遠くへの旅行」は「近隣(隣接)県よりも遠い地域への旅行」を選択したものの割合。
■旅行意向者が求める感染対策や旅行スタイル
基本的な安全対策、適切な情報開示、密の回避は、今後も当たり前の基準になりつつある傾向
国内旅行の宿泊先やスポットに求めることとしては、「従業員のマスクの着用・消毒」「従業員に検温を行っている」等の基本的な感染対策の実施が上位に挙がった。要望する割合も2020年5月比でもさらに増加しており、特に「従業員に検温」は、どの施設でも11pt以上と大きく上昇。当たり前の基準として定着し、さらに要望が上昇しているようだ。また「対策に関する情報公開」も上位に挙がり判断の要素として重要な観点となっている(表2参照)。
旅行の検討事項のトップは「人の多いところは避けたい」(59.7%)で、自由記述でも混雑を避けたいとするコメントが複数あった。感染対策とともに、密の回避を求める要望が高まっている(表3参照)。
Q.国内宿泊旅行についてお聞きします。宿泊施設や、観光スポットについて求める条件はありますか。以下の中からお選びください。(いくつでも)(コロナ禍に関係なくもともと行かない層を除く/複数回答/上位5項目を抜粋)
[表2]
第6回調査:n=1,431 第3回調査:n=1,434
※差は小数点2位以下も含めて算出
Q. 今後、国内宿泊旅行を検討するにあたり、以下のうちあてはまるお考えをお選びください。(いくつでも)(全体/複数回答/上位5項目を抜粋)
[表3]
いずれもn=1,652
Q. 国内旅行について、ご心配なことやご要望、これからやってみたい旅行など、ご自由に思うことをお書きください。※特に思いつかない場合は、「特にない」とご記入ください。(全体/自由記述)
・感染が落ち着いても人と距離をとりながら旅行をしたい (20代女性)
・今まで観光地は混雑しているのが当たり前と言う感覚を、このコロナを機に人数制限などでゆったり過ごせるようにしてほしい。(60代女性)
※第6回調査(2021年3月)の回答から混雑に関するものを抜粋
■『じゃらんリサーチセンター』による解説
『じゃらんリサーチセンター』研究スタッフ 五十嵐大悟
新型コロナウイルス感染症の感染拡大から1年経過しても、旅行意欲そのものは減少していない
受け入れ側は安心・安全を求める気持ちに応えることが重要
新型コロナウイルス感染症の影響拡大から1年経過しても旅行意欲そのものが減退していないことは、未来の旅行市場回復に向けて喜ばしいことといえます。旅行意向者は新型コロナウイルス感染症の影響発生前と変わらず旅行に行きたいと考えているものの、感染状況や安全を考慮して慎重かつ柔軟に行動を選択している傾向が見られました。旅行意向者の安心・安全は確保したいという思いを汲んで、各地域や宿泊・観光事業者の皆さまは、対応を検討し準備することをお勧めします。
収束傾向の場合も、混雑を避けた近場の旅行から回復する可能性
Withコロナ・Afterコロナ期では、旅の分散化に対応できる観光地づくりが重要に
本調査実施時点の旅行意向者は、近場の旅行を希望し、先の予定として遠隔地への期待が高まる傾向があります。今後ワクチン接種が全国や各世代へも広がり、感染状況が落ち着いた際には、旅行意欲はあるが実施を控えていた層が、近場の旅行を中心にして徐々に旅行を再開する可能性も期待されます。
旅行意向者は旅先に対して、基礎的な感染対策の実施や情報開示とともに密の回避を強く望んでいます。コロナ禍を1年間経験し、日常生活でも新しい生活様式が浸透し、人と人との間に適度な距離感を保つことも当たり前となりました。現在の旅行意向者が望む旅のスタイルは、感染症リスクを理解し、最小限としたい、また近場で混雑を回避するスタイルといえるでしょう。
新型コロナウイルス感染症の影響が表れる前までは、旅行実施は繁忙期に偏り、人気エリア・施設では同時期に集中、詰め込み型となる傾向がありました。コロナ禍をきっかけとした新しい生活様式や重要視する観点の変化によって旅行者は分散化を望む傾向が見られます。
有給休暇取得の義務化や選択的週休3日制に向けた動きが促進されれば、旅の分散化も同時に進む可能性が期待されます。また、Withコロナ・Afterコロナ期では観光地の住民の理解にも考慮した「持続可能な観光」の観点はさらに重要になると考えられます。受け入れ側の地域・事業者の皆さまも、量だけでなく質を重視した戦略への転換や年間を通したコンテンツの提供などが、さらに重要な施策となるでしょう。
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