■研究概要
唾液は口腔内の自浄作用と全身の健康に関与しています。唾液中の成分の一つであるIgAは感染症の予防を担う重要な免疫物質です。本研究において、ガム咀嚼によって、唾液とその中の成分であるIgA分泌がどのように変化するのか、ヒト試験により検証することとしました。
【対象】24~52歳の健常な男女20名(オープンランダム化クロスオーバー試験)
【方法】水で口をすすぎ安静後、無摂取時、および、タブレット、ガム摂取前後および摂取中に経時的に唾液を採取。
■研究結果
ガムを咀嚼することで、安静時と比較して唾液の分泌が促進され、口腔内のIgA分泌が約2.5倍(5分間咀嚼時)に増加することが確認されました。
■小林 弘幸(こばやし ひろゆき)順天堂大学医学部教授 コメント
よく噛むことは重要だということは誰もが知っています。ではなぜ重要なのかということを考える機会は案外少ないように思えます。今回の試験では一般的に長時間噛むことができる食品であるガムに着目し、研究を行いました。咀嚼することにより唾液の分泌およびIgAの分泌が促進されました。IgAは細菌やウイルスなどと結合することで、様々な病原体に対する生体防御機構の最前線として役割を果たしています。また噛むことの利点は免疫のみならず、肥満の防止やストレスの緩和、自律神経を整えるなど身体全体に及びます。噛むということは手軽にすぐにできることですので、日々の生活に意識して取り入れると良いと思います。
順天堂大学医学部 総合診療科・病院管理学 教授
プロフィール
自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもあり、みそをはじめとした腸内環境を整える食材の紹介や、腸内環境を整えるストレッチの考案など、様々な形で健康な心と体の作り方を提案している。著書多数執筆。メディア出演や講演活動も多数。
■唾液とIgA
口は食品中の細菌や空気中のウイルスと最初に接する器官です。これらの外敵に対して唾液は重要な防御機能を持っています。唾液は口の中の外敵を物理的に流して洗浄する効果があります。加えて、唾液の中で重要な働きをするのがIgAであり、口の中に入ってきた外敵に対して即座に反応し、身体の中に入り込むのを阻止するように働きます。感染症の予防には、唾液で口の乾燥を防ぐことと、門番の働きをする免疫物質IgAを口の中で多く分泌させておくことが大切です。
<研究結果概要>
【掲載紙】
薬理と治療(2020年48巻12号、2161-2166)
タイトル:ガム咀嚼による唾液中S-IgA分泌の影響 - オープンランダム化クロスオーバー試験 -
著者:松井美咲、菅野範、大澤謙二、小林弘幸
【研究背景・目的】
唾液の大部分は水分ですが、無機質、酵素、抗菌および免疫に関する物質などさまざまな要素で構成され、口腔内の自浄作用だけでなく、全身の健康にも関与しています1)。構成成分の一つである免疫グロブリンA(IgA)は感染症の予防を担う重要な免疫物質です2)-4)。本研究では、ガムを咀嚼することによる唾液とIgA分泌量の変化をヒト試験により検証いたしました。
【研究方法】
■対象:24~52歳の健常な男女20名(オープンランダム化クロスオーバー試験)
■期間:2020年8月~10月
■内訳:対象者20名にガム、タブレットを摂取し(または無摂取で)、唾液を採取してもらった。
■内容:水で口をすすぎ安静後、ガム、タブレットの摂取前後および摂取中に経時的に唾液を採取した。採取した唾液の重量、およびIgA量(ELISA法*)を測定した。
*:試料溶液中に含まれる目的の抗原あるいは抗体を、特異抗体あるいは抗原で捕捉するとともに、酵素反応を利用して検出・定量する方法
【結果・考察】
ガムを咀嚼することで、唾液量および時間当たりのIgA分泌率が有意に増加しました。またその効果は咀嚼中持続的であることも認められました。ガムにおいては味覚刺激と咀嚼刺激が口腔内で相加的に作用し、摂取5分間の無摂取やタブレットと比較した唾液量の増加とIgA分泌促進が認められた可能性があります。また、ガムは噛み続けることが可能な品質のため、唾液の分泌が持続的に促進されたと考えられます。
参考文献
1) AML Pedersen, CE Sørensen, GB Proctor, GH Carpenter, J Ekström. Salivary secretion in health and disease. J Oral Rehabil. 2018 ; 45 : 730-746.
2) B Corthésy. Multi-faceted functions of secretory IgA at mucosal surfaces. frontiers in Immunology. 2013 ; 4 : 185-195.
3) V Shkalim, Y Monselize, N Segal, I Zan-Bar, V Hoffer, BZ Garty. Selective IgA Deficiency in Children in Israel. Journal of Clinical Immunolog. 2010 ; 30 : 761-765.
4) A Priyadarsi, J Sankar. H1N1 infection associated with persistent lower respiratory tract illness in an infant with isolated IgA defi ciency. BMJ Case Reports. 2012. bcr1120115132.
■免疫に関する生活者意識調査
全国の一般生活者約7000名を対象に、新しい生活における免疫機能に関する意識調査を実施しました。約56%の人が新しい生活様式の中で免疫機能について意識しており、免疫機能への関心が高い状態であることが分かりました。
<調査概要>
■調査テーマ:新しい生活様式における免疫機能に関する意識調査
■調査期間:2021年2月5日(金)~2021年2月8日(月)
■調査対象:一般生活者6998名(男性3500・女性3489名、20代1075名・30代1383名・40代1531名・50代1357名、60歳以上1643名)
■調査方法:インターネット調査(全国)
【結果】
Q1. 普段から、免疫機能について意識をされていますか?
「とても意識している」「やや意識している」の合計が55.9%で、普段の生活で、現在、免疫機能を意識している方々の割合が多い結果でした。
Q2. 新型コロナウイルス感染拡大前(2019年12月以前)と比較して免疫機能についての意識に変化はございましたか?
「とても意識するようになった」、「やや意識するようになった」の合計が55.8%となり、新型コロナウイルス感染拡大後に意識変化が起こっている人の割合が高く、免疫機能に対して関心が高まっている結果となりました。
Q3.新しい生活様式の中で免疫機能が注目されていますが、免疫機能を上げる目的で取り入れていることはありますか?「十分な睡眠をとる」が43.3%で最も多い回答、次いで「発酵食品を摂る」が40.9%となりました。「適度な運動をする」が30.2%、「ストレスをためない」が26.2%で、それぞれ高い回答率となりました。
株式会社ロッテ
https://www.lotte.co.jp/
<噛むこと研究室>
株式会社ロッテでは、様々な自治体や研究機関、企業と連携し、最適な“噛む”を提供することで、皆様の力になりたいと考え、『噛むこと研究部』を設立。“噛む”という行為が、脳や心、身体にどのような影響を与えているかを明らかにすることを目的に活動を行っております。“お口の恋人”として今後もみなさまに寄り添い、“噛むこと”の研究を進め、有効性を広く啓発してまいります。
(噛むこと研究室ホームページ: https://kamukoto.jp/)