医療法人藤仁会藤立病院(筆頭研究者:上田章人先生)とフジッコ株式会社(本社:神戸市中央区/代表取締役社長執行役員:福井正一)らの研究グループは、「カスピ海ヨーグルト」の高齢者への服薬補助食品として活用した症例についての研究報告を、第 27 回日本病態栄養学会年次学術集会(2024 年 1 月 26 日~28 日)にて発表いたします。
研究概要
高齢者では嚥下(えんげ)力の低下により、水のように粘りのない食品は飲みこみにくくなります。これは薬 の服用時にも言えることで、水では薬の服用が困難となります。厚生労働省による「高齢者の医薬品適正使用の 指針」(1)では、高齢者に対する服薬支援の必要性が述べられており、適切な粘りを持った服薬補助ゼリー等の使 用が薦められています、しかし、服薬補助剤によっては未崩壊の薬剤排出が確認されるなど、一部で問題となっ ています (2)。
「カスピ海ヨーグルト」は独特の粘りと水分(乳清)の分離が少ないことが特徴であり、他のプレーンヨーグルトと比べて嚥下しやすいことがわかっています (3)。フジッコ株式会社では、「カスピ海ヨーグルト」の服薬補助食品としての新たな活用提案のため研究を進めてきました。今回、実際に嚥下機能の低下した高齢患者の方に、「カスピ海ヨーグルト」を用いて服薬いただき、服薬補助食品としての可能性を検討しました。
試験では、嚥下機能が低下し、水分摂取にとろみ調整食品の使用が必要な高齢者の方に、服薬補助食品として 「カスピ海ヨーグルト」を用いて便秘薬である酸化マグネシウム錠を継続的に服用していただきました。その結 果、「カスピ海ヨーグルト」を用いた服薬中に新たな気道症状やその他有害事象の出現はなく、安全な服薬継続 が可能であることが確認できました。また、服薬期間中の排便回数は経鼻胃管からの薬剤投与期間と差がなく、 「カスピ海ヨーグルト」による酸化マグネシウム錠の作用減弱が起きていないことも確認できました。これらの 結果から、ヒトを対象とした本症例において、「カスピ海ヨーグルト」を服薬補助食品として用いた場合でも、 酸化マグネシウム錠の安全かつ継続的な服用が可能であることが示されました。
とろみ調整食品は一般的に使用 される服薬補助剤ですが、酸化マグネシウム錠などの崩壊遅延や作用の減弱が報告されています(2)。今回の症例報告において、「カスピ海ヨーグルト」を服薬補助食品として活用した酸化マグネシウム錠の安全な服薬の一例が示されたことから、「カスピ海ヨーグルト」がとろみ剤調整食品の代替として活用できる可能性が示唆されました。
介護現場では、嚥下困難により服薬に問題を抱える高齢者に食事に混ぜて服薬している事例も報告されていま す (4)。「カスピ海ヨーグルト」の服薬補助食品としての利用については、今後他の薬剤に対する安全性や使用シー ンを精査する必要はありますが、手軽に使用できる服薬補助食品として介護現場等での活用が期待されます。
【引用文献】
(1) 厚生労働省, 高齢者の医薬品適正使用の指針 (2018)
(2) 富田ら, 薬学雑誌, 135(6), p.835-840 (2015)
(3) 後藤ら, 科学と工業, 93(9), p.311-315 (2019)
(4) 富田ら, 日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌, 23(1), p.37-43 (2019)
注意:薬と乳製品との飲み合わせにより副作用が出る場合があります。 薬の服用方法はかかりつけの医師、薬剤師等の医療従事者の指示に従ってください。
発表の詳細
学 会:第 27 回日本病態栄養学会年次学術集会(https://www.eiyou.or.jp/gakujutsu/)
会 期:2024 年 1 月 26 日~28 日 場 所:国立京都国際会館 演題番号:P-009(ポスター発表)
演題名 :嚥下機能が低下した高齢患者に嚥下補助食品としてヨーグルトを用いて酸化マグネシウム錠を投与した一例
発表者 :上田章人 1,2、藤井菜美 3、野原幹司 3、田畑祥之 4、渡邊伸一 5、小原道子 5、富田隆 6
1医療法人藤仁会 藤立病院
2帝京平成大学大学院 薬学研究科 薬学専攻
3大阪大学歯学部附属病院 顎口腔機能治療部
4フジッコ株式会社 イノベーションセンター
5帝京平成大学 薬学部
6国際医療福祉大学 薬学部
要 旨:
【緒言】とろみ調整食品は酸化マグネシウム錠の作用減弱を引き起こす可能性が指摘されている。今回我々は、 嚥下機能が低下した高齢患者にとろみ調整食品の代わりに Lactococcus cremoris subsp. cremoris FC(以下 L. cremoris FC)で作られたヨーグルトを用いて酸化マグネシウム錠を投与した一例について報告する。
【症例】再発性多発軟骨炎と糖尿病の既往がある 90 歳の女性。右腎腫瘍の手術後に気管切開術を施行されている。経口摂取困難と判断され、経鼻胃管からの経腸栄養と薬剤の投与が行われていた。当院転院後に摂食嚥下リハビリテーションを行ったところ、経口からの食事と服薬が可能となり、経鼻胃管の抜去が可能となった。水分摂取にはとろみ調整食品を使用する必要があったが、服薬中の酸化マグネシウム錠はとろみ調整食品を用いることで作用減弱を引き起こす可能性が報告されている。そこで今回は嚥下補助食品としてとろみ調整食品の代わり に L. cremoris FC で作られたヨーグルトを用いたところ、発熱や新たな気道症状の出現なく服薬継続が可能で あった。経鼻胃管から酸化マグネシウム錠を投与していた期間の便回数は平均 1.5 回/日で、L. cremoris FC で 作られたヨーグルトを用いて服薬していた期間の便回数は平均 2.2 回/日であった。
【考察】とろみ調整食品を用いて服薬していた高齢者において、酸化マグネシウム錠が未崩壊の状態で便中に排 泄されたとの報告がある。この報告は一部で話題となったが、多くの臨床医には知られていない。とろみ調整食 品を用いた服薬に関しては、酸化マグネシウム錠以外にも、口腔内崩壊錠で崩壊の遅延や作用の減弱が報告され ている。L. cremoris FC で作られたヨーグルトは、特徴的なテクスチャーにより嚥下障害患者に安全に投与でき る可能性が報告されている食品である。今後のさらなる研究によって、嚥下障害患者へ薬剤を投与する場合の選 択肢の一つとなり得るかもしれない。
お問い合わせ先
フジッコ株式会社
担当者:イノベーションセンター 基盤研究グループ 田畑 祥之
責任者:イノベーションセンター センター長 丸山 健太郎
TEL:078-303-5385
ホームページアドレス:https://www.fujicco.co.jp