江崎グリコ株式会社は、短鎖脂肪酸を多く生み出す※1当社独自のビフィズス菌Bifidobacterium animalis subsp. lactis GCL2505(以下、GCL2505株)と水溶性食物繊維イヌリンによる血管の柔軟性の改善効果を確認しました。本研究成果は2023年10月17日(火)に日本農芸化学会の英文誌「Bioscience, Biotechnology and Biochemistry」に掲載されました。当社は「タンサ脂肪酸プロジェクト」として短鎖脂肪酸の研究と啓発活動を積極的に進めており、今後もGCL2505株と短鎖脂肪酸の可能性を探ってまいります。
【本研究のポイント】
血管の柔軟性が低下している健常な成人男女60名を対象にしたヒト試験を行った結果、
GCL2505株とイヌリンを12週間摂取した群は、プラセボ群と比較して、血管の柔軟性が改善されました。またこの群では、腸内のビフィズス菌が増えるとともに、血管柔軟性を低下させ動脈硬化の発症や進行に直接関係するLDLコレステロールなどの血液成分の濃度が減少しました。
これらの結果は、GCL2505株とイヌリンの摂取によって短鎖脂肪酸が多く生み出されたためだと考えられます。
血管の柔軟性が低下することで、脳卒中や心筋梗塞に代表される心血管疾患の発症リスクが高まることから、今回の結果により、GCL2505株とイヌリンを継続的に摂取することで、心血管疾患の発症率を下げる可能性が示唆されました。
【内容】
■論文タイトル・著者名
Effect of daily ingestion of Bifidobacterium and dietary fiber on vascular endothelial function: a randomized, double-blind, placebo-controlled, parallel-group comparison study.
Naoki Azuma, Yasuo Saito, Tomohiko Nishijima, Ryo Aoki, and Jun Nishihira.
Biosci Biotechnol Biochem. 2023, Oct 17: zbad148. (Online ahead of print);
https://academic.oup.com/bbb/advance-article/doi/10.1093/bbb/zbad148/7320324
■研究背景
血管は加齢や生活習慣によって柔軟性が低下して硬くなります。そして、そのことが様々な疾患、特に心血管疾患の原因になるといわれています。心血管疾患とは心臓・血管など循環器における疾患の総称のことで、代表的なものに脳卒中や心筋梗塞、狭心症、不整脈などが挙げられます。世界で2019年に心血管疾患によって死亡した人は推定1,790万人とされ、全世界の死亡者数の32%に相当するといわれており※2、主要な死亡原因の1つとなっています。日本でも心血管疾患は死因の第2位となっており、私たちが抱える課題の1つとして捉えられています(図1)。
心血管疾患の主な原因には動脈硬化が挙げられます。動脈硬化とは、血管の壁が厚く、硬くなった状態のことを指します。正常な血管は柔軟性がありますが、動脈硬化を起こした血管は、使い古したゴムホースのように弾力性を失って硬く、もろくなります。その結果、血管が詰まり、破れやすくなることで心血管疾患の発症につながります。従って、血管の柔軟性を保つことこそが心血管疾患にならないための大切な対策の1つと考えられています。
~血管の柔軟性に対するGCL2505株と短鎖脂肪酸の可能性~
血管の柔軟性は肥満など身体の炎症と深い関係があることが最近分かってきました※3。肥満や炎症を緩和することで、動脈硬化の発症や進行を抑えることができると期待されています。
当社独自のビフィズス菌であるGCL2505株は健康な成人から分離されたプロバイオティクス株で、内臓脂肪低減による抗肥満効果が明らかとなっています※4。またGCL2505株は、ヒトの腸内にいる一般的なビフィズス菌と比べて短鎖脂肪酸を多く産生することも明らかになっています※1。
肥満など身体の炎症は短鎖脂肪酸によって緩和されるという報告がなされるなど※5、短鎖脂肪酸と炎症の関連性について研究が進む中、当社ではGCL2505株とイヌリンによる血管の柔軟性への影響を確認するための研究に着手しました。
■試験概要と結果
血管の柔軟性が低下している健常な成人男女60名を対象に、プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を行いました。
その結果、1日あたり100億個のGCL2505株と2gのイヌリンを 12 週間摂取した群(GCL2505群)は、プラセボ群と比較してFMD検査※注のスコアが有意に改善しました(図2)。またGCL2505群は、プラセボ群と比較し、GCL2505株を含むB. animalisの糞便中菌数が有意に高い値を示しました。さらにGCL2505群では、LDLコレステロールなど動脈硬化の発症や進行に直接関係がある血液成分の濃度が減少しました。
■考察
今回の結果よりGCL2505株とイヌリンの継続的な摂取は、心血管疾患のリスクを減らす有効なアプローチである可能性が示唆されました。なおFMD検査値が1%上昇すると、心血管疾患の発症リスクが12%低下するとの報告※6があります。今回の試験でGCL2505群では、0.88%のFMD検査値の上昇が確認されました。従って、日常的にGCL2505株とイヌリンを取ることで短鎖脂肪酸が多く生み出され、心血管疾患の発症率が下がる可能性があります。
当社は、今後もGCL2505株と短鎖脂肪酸の可能性を探り、当社のパーパスである「すこやかな毎日、ゆたかな人生」の実現に努めてまいります。
【参考情報】
■短鎖脂肪酸とは
短鎖脂肪酸とは、ビフィズス菌などの腸内細菌が水溶性食物繊維などをエサにして作る腸内細菌代謝物質です。酢酸、プロピオン酸、酪酸などがその代表です。近年の研究で、体脂肪の低減、基礎代謝の向上などの抗肥満作用をはじめ、免疫やストレス、認知機能への作用など、様々な機能を持つことが明らかになっています。
■江崎グリコの「タンサ脂肪酸プロジェクト」について
当社は、人々の健康寿命を延伸することをひとつの使命と考え、腸の健康と腸内細菌の研究に力を注いでいます。近年、腸と密接に結びついた様々な疾病が人々の健康課題となる中、ビフィズス菌と短鎖脂肪酸の研究と啓発活動によって、健康寿命の延伸に寄与したいと考え、2022年6月より「タンサ脂肪酸プロジェクト」を立ち上げました。生活者の方々への短鎖脂肪酸に関する分かりやすい情報の発信と、当社独自のビフィズス菌であるGCL2505株のヒトへの作用に関する臨床研究等を進めております。
タンサ脂肪酸プロジェクトサイト:https://cp.glico.com/tansa/
※1Aoki et al. Sci. Rep. 2017, 7, 43522.
※2WHO(世界保健機関) 2021年6月11日発表 https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/cardiovascular-diseases-(cvds)
※3Holmes et al. Neurology. 2009, 73, 768-774.
※4Takahashi et al. Biosci. Microbiota Food Health. 2016, 35, 163-171.
※5Xiao et al. Microbiome. 2022, 10, 62.
※6Matsuzawa et al. J Am Heart Assoc. 2015, 4, e002270.