研究背景
当社ではこれまでに、「紅茶摂取による急性上気道炎症に対する抑制効果」についての臨床試験を実施し、習慣的な紅茶の飲用は、自然免疫機能および粘膜免疫機能を向上させ、風邪(急性上気道炎症)の発症リスク等を低減することを報告しました1)。体内への病原体の侵入を防ぐ役割を担う粘膜免疫は、腸内細菌叢と密接に関わっていることが知られています。そこで本研究では、上記臨床試験にて採取した糞便試料を解析し、紅茶の継続的な飲用が腸内細菌叢に与える影響を検証しました。
研究手法
20 ~ 60歳までの健常な成人男女72人を対象に、紅茶(ティーバッグから抽出した紅茶)またはプラセボ(麦茶)を1日3杯、12週間継続して摂取させるランダム化プラセボ対照単盲検並行群間比較試験を行いました。紅茶には1日摂取量あたり高分子紅茶ポリフェノール(テアフラビンとして)が76.2 mg含まれていました。摂取期間の前後に糞便を採取し、各腸内細菌の量を評価しました。
研究成果
習慣的な紅茶の飲用により、腸内において酢酸産生菌であるプレボテラ属菌の増加が認められました。腸内細菌が食物繊維や糖を分解して作られる酢酸は、抗肥満作用や血糖値上昇抑制作用等、多彩な生理作用を発揮することが報告されています。
酢酸産生菌の1つであるプレボテラ属菌は、炭水化物(糖質や食物繊維)の摂取量が多い食生活の人の腸内でよく見られる腸内細菌であり、腸内で炭水化物を分解して短鎖脂肪酸を産生する能力が高いことが知られています。そのため、紅茶の飲用によるプレボテラ属菌の増加は、食事から摂取した未消化の炭水化物の利用を改善し、健康の維持増進に役立つ可能性があります。
また、口腔内において粘膜免疫機能を担う免疫物質(唾液SIgA)濃度が低い人では、紅茶の飲用により唾液SIgA濃度が上昇することが分かっています1)。そこで、本研究でも同様に、唾液SIgA濃度が低い人を対象として、習慣的な紅茶飲用による腸内細菌叢への影響を検証しました。
その結果、唾液SIgA濃度が低い人は、紅茶の飲用により、酢酸産生菌が増加するだけでなく、複数種類の酪酸産生菌が腸内において増加することが示されました。酪酸は、腸内において腸管上皮細胞のエネルギー源として利用されたり、免疫物質IgA抗体の産生を促進することで、粘膜免疫機能を改善する働きがあることが知られています。本研究において紅茶摂取により増加が認められた酪酸産生菌の1つであるフィーカリバクテリウム プラウスニッツィは、健康長寿の人の腸内に多く存在する免疫有益菌として注目されている腸内細菌です。
以上のことから、紅茶の習慣的な飲用は、腸内における免疫有益菌である酪酸産生菌を増加させ、免疫機能の維持に役立つ可能性が示されました。
以上の研究成果は、前報において示された紅茶の習慣的な飲用による急性上気道炎症の発現抑制効果1)が、腸内有益菌の増加を介した粘膜免疫機能の改善によって発揮された可能性を示しており、紅茶の習慣的な飲用は、健康の維持に役立つことが期待されます。
1) Jpn Pharmacol Ther 49: 273-288, 2021
【本研究の詳細】
詳細は以下論文よりご確認下さい。
Journal of Nutritional Science and Vitaminology, 69, 326-339, 2023
“The Effects of Black Tea Consumption on Intestinal Microflora ―A Randomized Single-Blind Parallel-Group, Placebo-Controlled Study”
Reno Tomioka, Yuko Tanaka, Masayuki Suzuki and Shukuko Ebihara
著者について
冨岡玲乃
三井農林株式会社 R&D本部 基礎開発部 機能性開発室
2021年 三井農林株式会社に入社、R&D本部 基礎開発部機能性開発室に配属。現在は、紅茶の免疫機能に関わる研究を担当。