【イベントレポート】日本の宇宙産業を「世界で稼げるビジネス」へ--政府機関や「宇宙戦略基金」採択事業者が海外展開を支援

掲載日: 2026年09月18日 /提供:国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 宇宙戦略基金事業部

 JAXA宇宙戦略基金事業部・新事業促進部は8月18日、宇宙戦略基金事業に採択された事業者を含む日本企業・団体を対象に、海外展開の支援策などを紹介する「宇宙ビジネス海外展開支援 合同説明会」を開催しました。同日のイベントの模様をお伝えします。


「宇宙ビジネス海外展開支援 合同説明会」

 説明会では、経済産業省、JAXA、地球観測コンソーシアム(CONSEO)、JETRO(日本貿易振興機構)、JICA(国際協力機構)に加え、宇宙戦略基金事業に採択された6事業者が登壇。宇宙産業をグローバル市場で成長させるための政府方針や各機関の支援策のほか、中東、インド、ASEAN、アフリカ、豪州・太平洋島嶼国、欧米など、地域別の市場戦略を紹介しました。
「世界を相手に稼ぐ宇宙産業」を目指す
 冒頭、経済産業省の平松氏は、日本の宇宙産業が持続的に発展するためには、国内市場だけに依存せず、グローバル市場で収益を獲得できる産業へと成長することが不可欠だと強調しました。宇宙産業は他産業と比較して開発や運用に多額の費用がかかるため、十分な市場規模を確保しなければ持続的な成長が難しいという特徴があります。そのため、日本の宇宙産業を将来にわたって発展させるには、グローバル市場で競争力を持つことが前提になると説明しました。「日本の暮らしや産業、安全保障を支える重要なインフラとして宇宙サービスを提供していくためにも、世界市場で稼げる宇宙産業になる必要があります」(平松氏)


経済産業省 製造産業局 宇宙産業課 課長補佐の平松 崇氏

 経済産業省ではこれまで、K Program(経済安全保障重要技術育成プログラム)やSBIR(中小企業イノベーション創出推進事業)などを通じて技術開発支援を進めてきましたが、宇宙戦略基金によって、社会実装や事業化段階への支援を本格化させています。

 海外展開については、日本企業が単に宇宙技術やサービスを輸出するだけではなく、相手国が育成したい宇宙産業の発展に貢献しながら共に成長する関係づくりが重要だと指摘しました。また、米国、欧州、中東など、それぞれ異なる市場環境やニーズに応じた戦略が必要になるとの考えを示しました。
JAXAやJETRO、JICAの海外展開支援策は?
 続いて、各機関が提供している海外展開支援策が紹介されました。国際協力や、専門家による相談支援、人材育成に関するプログラムなど、事業者が活用できるさまざまな制度について説明しました。

 JAXAでは近年、関係機関と連携しながら海外展示会への出展支援やビジネスマッチング、日本企業の情報発信などに力を入れています。また、支援策の効果を定量的に把握するため、展示会やイベント終了後にはアンケートを実施し、商談創出や案件形成の状況を分析。その結果を翌年度以降の施策に反映しています。過去に実施したアンケートでは、日本の宇宙関連企業が関心を持つ市場として、米国に続きオーストラリア、英国、ドイツ、フランス、インドなどが上位に挙がりました。

 JAXAはこうした調査結果も活用しながら、経済産業省、外務省、JETRO、JICAなどの各機関や、宇宙戦略基金事業に採択された実施機関などと横断的に連携。世界各地における取り組みを支援しています。

JAXA 宇宙戦略基金事業部 企画推進課 課長の伊奈康二

 また近年は「Co-Funded事業推進枠組み」と呼ばれる、新たな国際連携の枠組みに基づく協力も進めています。これは枠組みに合意したJAXAと海外宇宙機関が共同で企業支援を行う仕組みで、英国、フランス、シンガポールなどとの協力が始まっています。相手国側の資金や技術支援も引き出しながら、国際共同プロジェクト創出につなげたい考えです。

 続けて、CONSEOが取り組みを紹介しました。同コンソーシアムは現在350社を超える企業・団体が参加しており、地球観測データの利用拡大を目的とした活動を展開しています。近年は海外展開にも力を入れており、マレーシア、カンボジア、オーストラリアなどでワークショップやシンポジウムを開催するなどして、案件創出を支援しています。衛星データビジネスを持続的に発展させるためには、日本国内だけでなく海外市場で利用が広がることが重要だと説明しました。

CONSEO事務局/JAXA 第一宇宙技術部門地球観測プログラム戦略室の杉田尚子

 JETROからは、スタートアップをはじめとした日本企業への海外展開支援策が紹介されました。これまで2,000社を超えるスタートアップを支援し、250件以上の海外展開の成功事例を創出しています。2025年度にJAXAとともに、欧州展開を目指す日系スタートアップを支援する初の宇宙分野(スペーステック)のアクセラレーションプログラムを実施。2026年度も宇宙を含むディープテック領域を対象とした欧州市場向けのプログラムを実施しています。このほか、中堅・中小企業向けに専門家が海外展開を伴走支援する「ハンズオン支援サービス」を紹介しました。

JETROイノベーション部スタートアップ課の井上尚貴氏

 JICAは宇宙技術を活用した国際協力や人材育成について紹介しました。3つの重点領域として「宇宙技術・衛星データの利活用促進」「人材育成と国際頭脳循環の促進」「共創促進・エコシステムの創出」を掲げています。JAXAとは2014年に連携協定を結んでおり、開発途上国の留学生受け入れや宇宙人材の育成を進めています。また、民間企業とのインターンシッププログラムも開始する予定です。

JICAガバナンス・平和構築部STI・DX室 アソシエイト専門員の安藤亥二郎氏

国や地域ごとに異なる戦略でグローバル市場を開拓
 イベント後半では、宇宙戦略基金事業に採択された事業者6社が地域別の取り組みを紹介しました。

三菱総合研究所(中東)
 中東地域を担当する三菱総合研究所は、スポット的な案件創出ではなく持続的な信頼関係と産業のエコシステムを構築することを重視しています。中東では近年、宇宙やAI分野への投資が拡大しており、日本との良好な関係も大きな強みになると説明しました。支援対象は衛星データ利活用に限らず、通信、測位、探査といった幅広い宇宙分野に及びます。さらに、人材育成や事業化支援、現地とのビジネスマッチングなども実施し、産官学連携のハブとして日本企業の中東進出を後押ししていく方針です。

三菱総合研究所 フロンティア政策本部 フロンティア戦略グループリーダーの武藤正紀氏

野村総合研究所(インド)
 野村総合研究所はインド市場を担当しています。世界最多の人口を抱え、経済成長が続くインドは日本企業にとって有望な市場であるだけでなく、グローバル市場へ展開するための重要な拠点にもなります。すでに現地企業とのMOU等を締結する日本の宇宙スタートアップもありますが、「売りたい企業同士」をつなぐだけでは成果に至らないこともあり、双方のニーズを踏まえた実効性の高いマッチングを重視します。また、現地で開催される宇宙関連の展示会なども活用しながら、日本企業の事業機会創出を支援していく方針です。

野村総合研究所 グループマネージャー ICT・コンテンツ産業コンサルティング部の岸 浩稔氏

デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ(豪州・太平洋島嶼国)
 デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ(DTSS)は、オーストラリアおよび太平洋島嶼国の宇宙関連市場に注力しています。オーストラリアは日本企業からの関心が非常に高い市場であり、事業展開にあたっては、連邦政府、オーストラリア宇宙庁、州政府による宇宙関連政策・施策の動向に加え、産業構造や規制・調達慣行を踏まえた現地市場への理解が求められます。DTSSは、コンサルティングファームとして培った広範かつ強固なグローバルネットワークを活用し、オープンイノベーションを促進する共創基盤の構築・推進を目指しています。本取組を通じて、日本企業とオーストラリアの宇宙・非宇宙分野の企業・機関との連携を促進し、新たな商業機会の創出やプロジェクトの共創を支援していく方針です。

デロイト トーマツ スペース アンド セキュリティ シニアマネジャーの栃木佑太氏

クロスユー(アフリカ)
 クロスユーはアフリカ市場を対象に、衛星データ活用エコシステムの構築を目指しています。2024年から新興国ワーキンググループを運営しており、これまでにアフリカ6カ国とのMOUを締結しました。2026年には官民合同ミッションなどを通じてエチオピアやガーナを訪問し、現地の課題やニーズを把握するワークショップも実施しています。アフリカには社会課題の解決需要や産業基盤の整備需要がある一方、日本企業には継続的なビジネス機会があるとし、「点」で終わらない長期的な関係構築を目指しています。宇宙戦略基金事業では、衛星データ活用の共通基盤整備や利活用プレイブックの策定を進めるほか、現地スタートアップやベンチャーキャピタルとの連携を通じて、自走可能なエコシステムの形成を支援していく考えです。

クロスユー 事業三課(国際事業戦略)課長の宮崎早季氏

衛星システム技術推進機構:ASTEC(欧米)
 ASTECは、日本製宇宙コンポーネントの海外展開支援を担当しています。通信・観測・測位・軌道上サービスなどの市場動向・関連する技術動向やサプライチェーンに関する調査・分析などを中心に活動しており、宇宙戦略基金事業の第一期では商用電子部品を宇宙利用するためのCOTSガイドライン策定などにも取り組んできました。今後は、日本製コンポーネントの英語版カタログ整備や国際展示会での情報発信を進めるほか、NASAなどが発行する技術資料への掲載支援、海外市場のニーズ調査などを通じて、日本企業の認知度向上と販路拡大を支援していく方針です。

ASTEC 事務局長の鈴木隆太氏

日本宇宙フォーラム:JSF(ASEAN)
 日本宇宙フォーラムはASEAN地域を担当しています。衛星データを含む宇宙技術を用いた利活用による海外展開支援をテーマに宇宙戦略基金事業の第一期、第二期で採択されており、将来的にはASEAN11カ国を対象に、数十億円から数百億円規模のビジネスを3~5件生み出すための環境整備を目標に掲げています。また、多くの実施機関を横断的に支援するため、AIを活用したビジネス環境情報収集ツールの整備や、衛星データプラットフォームの相互活用促進も進める方針です。現地コーディネーターも配置し、日本企業の事業開発やパートナー探索を継続的に支援していくと説明しました。

JSF 事業創造部長/宇宙政策調査研究センター 主任調査分析員の小林功典氏

宇宙産業成長に「グローバル市場」は不可欠
 イベント全体を通じて繰り返し語られたのは、日本の宇宙産業が持続的に成長するためにはグローバル市場への進出が不可欠だという点でした。経済産業省、JAXA、JETRO、JICAなどの政府関係機関が、日本企業の海外展開を後押しする体制は着実に拡充されています。また、宇宙戦略基金事業に採択された6事業者は、それぞれの地域で官民ネットワークの構築や市場調査、マッチング支援、人材育成などを担い、日本企業の海外展開を現地に密着した形で支援していく役割を担います。

 日本の宇宙産業が世界市場でどのような存在感を発揮していくのか。今後もさまざまな形で海外展開支援策や成果などをご紹介していきます。(「宇宙ビジネス海外展開支援 合同説明会」登壇者の講演スライドはイベントページよりご覧いただけます)

                      執筆:藤井 涼(JAXA宇宙戦略基金事業部 広報担当)

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