アリックスパートナーズ、「2026年世界の小売業界の見通しレポート」を発表

掲載日: 2026年05月13日 /提供:アリックスパートナーズ・アジア・エルエルシー

小売業界を動かす5つの変革の波

グローバル・コンサルティング・ファームのアリックスパートナーズ(本社:米国ニューヨーク、日本:東京都千代田区、代表:植地卓郎、以下、当社)は、「2026年世界の小売業界の見通し」レポートにおいて2026年は関税政策や地政学的紛争の行方が見通せない「恒常的危機(パーマクライシス)」の渦中にあり果断な経営判断を下すことは容易ではないとした上で、小売業者は自社がコントロールできる領域に経営資源を集中させることが重要であると指摘しています。本レポートでは主要変数を分析し、2026年に小売業者が直面しうる最も大きな5つの変革についてシナリオを作成しました。

1. エージェンティックAI(自律型AI)の進展
2026年版アリックスパートナーズのディスラプション・レポートによると、「AIプログラムの成熟度が高い」と答えた小売・消費財企業の経営者はわずか32%で、現状、AI投資の多くは、在庫管理や需要予測などのバックオフィス業務にとどまり、顧客体験向上への活用は限定的です1. 。エージェンティックAIの活用は今年も引き続き注目事項ではありますが、業界全体への本格的なインパクトが顕在化するのは2030年頃までかかると見込まれます。その頃には、効率性やサプライチェーンに強みのある企業がAI活用で優位に立つ一方、感情的なつながりやアップセル(客単価の向上)に依存する企業は価格競争力の低下に直面する可能性があります。また、AI導入においては期間を限定し価格最適化ツールなどを組み込む短期パイロット型が主流となりつつあり、複雑な投資対効果(ROI)を伴う大規模システム投資は減少傾向にあります。

2. ECの成長とリアル店舗の再評価
オムニチャネルの主軸は「いかに早く・安く商品を届けるか」でしたが、2024年Q3から2025年Q3のEC比率は16.2%から16.4%と0.2pt増にとどまっています2.。Amazonが価格競争型からWhole Foodsなどの体験型へシフトするなど3. 、2026年はリアル店舗の体験価値が再評価され、店舗同士のシェア争いが本格化する年になっています。2026年版アリックスパートナーズ スーパーマーケット消費者レポートによると、プライベートブランドを選ぶ価値志向顧客は32%から47%に増加しており、Trader Joe’s(来客数6.2%増/業界平均1.2%増:Placer.aiデータ参照)、Aldiや Lidlなどはプライベートブランドや「宝探し」型体験で集客を拡大しています4.。

3. 体験型店舗への投資と資本制約
小売用不動産は2025年以降安定傾向にありますが、インフレや消費行動変化は、小売企業の長期にわたる資本集約型戦略へのシフトを抑圧しています5.。体験型店舗は単独収益化まで3年から5年を要するケースが多く、ラグジュアリー、食品大手、デジタルネイティブの高収益ブランドは旗艦店へ投資できますが、中堅アパレル・百貨店による資本調達は容易ではありません。2026年版アリックスパートナーズ ディスラプション・インデックスレポートによると70%の経営層が保護主義・貿易リスクを懸念し、ニアショア、サプライヤーの多様化、AI可視化、ラストマイルの効率化への投資を優先しています。これらの投資は、体験型店舗向け資金をめぐって直接競合するため、トレードオフは避けられない状況にあります。 結果として、多くの企業で本格的な変革ではなく、パイロット店舗や短期リース、ポップアップ、モジュール型の体験導入など限定的な取り組みが主流になるとみています。

4. インフレの影響はM&Aや資本政策にも波及
2026年はオーガニック成長が難しい環境が続き、M&AやJV、特殊目的会社(SPV)などによる非連続成長への期待が高まっています。インフレ率の見通し次第で、資本コストやディール成立の可否が大きく左右されるとみており、インフレが落ち着けばM&Aや資産最適化が進みますが、インフレ高止まりの場合は取引の難易度が上がり、財務リストラクチャリングやバランスシートの柔軟性を高めることの重要性が高まるとみています。

5. M&A戦略の変化
新たな地域への進出、新しいカテゴリーへの拡大、さらなる物理的資産の獲得が目的であった小売業界の従来のM&Aモデルに加え、2026年は「良い資産だけを取得し、悪い資産は避ける」という新たな手法が広がると予測します。バリュー型小売りセグメントでは、ALDIのような企業は商品ラインナップを絞り込むことでシェアを拡大しています6.。従来適応してきた連邦倒産法第11章のような方法では、経営難に陥った企業の健全性を長期的に改善することは困難になっています。

アリックスパートナーズのパートナーで、日本の消費財・小売りプラクティス・リーダーである江川恭太は以下のように述べています。
「2026年は、小売業界で起きるディスラプションが最も大きく、関税政策や地政学的リスクなどと相まって、益々先行きが見通せない業界になっています。企業が生き残り、競争優位を確立するためには、サプライチェーンの強化や生産性向上など、小売の基本を徹底しつつ、市場や消費者の急速な変化に柔軟かつ迅速に対応できる組織作りが不可欠です。AIや体験型店舗への投資、インフレ環境下での資本政策やM&A戦略の見直しによって、業界構造が大きく塗り替えられています。限定的なパイロット投資や事業ポートフォリオの機動的最適化を通じて、環境変化に即応できる企業と、対応が遅れる企業との間で明確な差が生まれるとみています。」

1. https://www.retaildive.com/news/online-retailers-spent-thousands-artificial-intelligence-customer-experience-tools/746579/
2. https://fred.stlouisfed.org/series/ECOMPCTSA
3. https://www.aboutamazon.com/news/company-news/amazon-fresh-go-stores-closing-expanding-whole-foods
4. https://www.retailbrew.com/stories/2025/07/17/trader-joe-s-aldi-and-lidl-are-on-fire-with-foot-traffic
5. https://www.dbbnwa.com/articles/retail-real-estate-in-2026-cautious-expansion-experiential-growth-strategic-rebalancing/
6. https://massmarketretailers.com/aldi-is-the-grocer-of-the-year/

【別添】
日本の小売業界が直面する構造問題と見通し

上記トレンドは日本市場においてどのような意味を持つのでしょうか。人口減少による市場縮小、人件費や原材料費の高騰、テクノロジーの急速な進化という構造問題に直面する日本の小売業界に、米国のデータを当てはめてみると何が見えてくるのか、当社小売・消費財プラクティスの日本共同リーダーである江川恭太が、米国との比較を軸に日本の現状と今後の道筋を語りました。

AI活用:米国は「顧客体験」を見据え、日本は「オペレーション効率化」に留まる
日本のAI活用の現状は?ポテンシャルが大きな領域はどこか?

AIの活用は業界の未来を左右する重要な要素ですがその活用法には日米間で明確な違いが見られます。

米国のAmazonやウォルマートといった巨大プレイヤーは独自の接客AIを導入するなど、顧客とのエンゲージメント強化に重点的に投資しています。オペレーションの効率化に加え、顧客体験にも積極的に踏み込んでいます。米国の調査でもAI活用の成熟度が高いと答えた経営者は32%に留まっており、業界全体としてはまだ発展途上にあります。それでも、活用の方向性としては顧客側への投資が明確に意識されています。

一方、日本の小売業が直面しているのは、労働人口の減少、それに伴う人件費の上昇、そして足元の収益性改善という三重苦から、生き残りに直結する課題です。そのため、日本におけるAI投資はまず「オペレーションの効率化」に向けられる傾向が強いです。

そうした文脈で、日本のAI活用として大きなポテンシャルを持つのが「分散型意思決定の効率化」です。日本の小売業は構造的に意思決定が極めて分散しており、ここにAIが効く余地が大きいからです。

マーチャンダイジングの方針など本部が意思決定する領域もありますが、バリューチェーン全体をコントロールする上で、上流から店舗に至るまで、マーケティング、在庫、倉庫・物流、販促、価格、店舗ポートフォリオ等、意思決定は多層的に存在しています。さらに店舗レベルでは、棚割りや発注、値引きの判断、シフト調整、売場レイアウトといった日々の重要な判断が、各店舗、さらには売り場単位で行われているのが実情です。

これらの判断の多くはデータに基づいて体系的に行われているわけではなく、現場の担当者の経験や感覚に依存しているケースも少なくありません。例えば、生鮮食品スーパーの夕方の値引きシールを貼るタイミングや割引率は、現場判断に委ねられているケースがその典型です。意思決定が属人化することで、全社としての最適化が難しくなるだけでなく、判断の質やスピードにばらつきが生じやすいという課題も生まれています。小売業における収益性やオペレーション効率の改善を考える上で、この分散した意思決定構造そのものが重要なボトルネックとなっているのです。

こうした、従来は属人的で精度を欠きがちだった意思決定をAIによってデータに基づき精緻化するだけでも、ボトムライン(最終利益)に大きなインパクトが期待できます。

さらに、こうしたAI活用を現場レベルまで広げる上で、生成AIの存在が大きな鍵を握ります。専門的なコードを書く必要があったAIのコントロールが自然言語で可能になるため、必ずしもリテラシーが高くない人材でも活用がしやすくなります。また、メーカー、卸、物流、小売、とバリューチェーンごとにプレイヤーが異なり、システム連携が困難という日本特有の問題に対しても、異なるプロトコルを持つシステム同士の連携を生成AIが仲介することで、この壁を乗り越える一助となるでしょう。

「選択と集中」が急務に。3つの類型に見るアプローチ
アメリカでは、店舗への投資、サプライチェーン強化、オムニチャネルなど、どこに資本投下するか企業が模索しているが、日本企業が資本配分を考える上で、まず何を問い直す必要があるか。

人口減少により市場そのものが縮小する中、日本の小売企業の経営者は新たな収益源泉をどこに求めるのか、そして資本をどこに投下するべきかという、厳しい選択を迫られています。

まさに今、自社が「どの領域で価値を生み出し、どの領域を捨てるのか」を明確に見極め、非中核事業からの撤退を含めてフォーカスすることが不可欠です。日本の小売業を以下の3つの類型に分けたとき、それぞれが取るべき戦略は異なります。

1. 生活全体支援型
多角化を進めてきた巨大企業グループ。今後はノンコア事業を整理し、事業ポートフォリオをスリム化していく動きが加速するでしょう。

2. 専門店スケール型
特定の領域に特化し、規模を拡大してきた企業。グローバル市場含めた市場拡大に向けて、自社の強みをさらに強化する分野への集中的な投資を続けると考えられます。

3. 中小規模プレイヤー
資本力や事業規模で劣る企業。多くは単独での生き残りが難しく、今後は大手プラットフォームへの参画、あるいは特定の機能を武器とした出口戦略を含めた再編の対象となっていく可能性が高いと見られます。

M&Aの潮流:「選択的M&A」が広がる米国に対して、日本で加速する3つの波

米国では「良い資産だけを取得し、不採算事業は避ける」といった選択的M&Aの増加が予想されているが、2026年以降、日本における統合や再編の見通しは?

事業の「選択と集中」の流れは、必然的にM&Aの活発化につながります。金利上昇という逆風はあるものの、それを上回る要因から、以下の3つのトレンドを軸に業界再編が加速すると予測します。

1. ノンコア事業のカーブアウト(事業の切り出し・売却)
コングロマリット型企業が、収益性や成長性の観点から中核ではないと判断した事業を切り離し、売却する動きです。これによって事業ポートフォリオのスリム化を図ります。

2. ロールアップ型の集約(同業他社の買収・統合)
原材料費や人件費の高騰で収益が圧迫され、単独での企業価値向上が困難となる中小型企業が増加します。これらの企業を、財務体力のあるプレイヤーが吸収・統合していく再編が進みます。

3. 外資による買収
こうして生まれるノンコア資産や再編途上の企業群は、海外投資家にとって魅力的な投資対象となります。特に円安環境下では、プライベートエクイティ(PE)ファンドを中心とした外資にとって、日本企業を割安に取得できる好機です。

これら3つの動きはいずれも、財務体力のある企業とそうでない企業の差を広げる方向に働きます。その結果、投資余力があり健全な財務体質を持つ「勝ち組」と、そうでない企業との二極化がさらに鮮明になっていくでしょう。自社の強みを磨き、事業ポートフォリオを最適化し、来るべき業界再編の波を乗りこなせるか。今、各社が下す戦略的な舵取りが、数年後の企業の未来を左右することになるでしょう。

※本プレスリリースリリースは米国で発表された内容の抄訳版となります。

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アリックスパートナーズについて
1981 年設立。ニューヨークに本社を構える結果重視型のグローバルコンサルティング会社。企業再生案件や緊急性が高く複雑な課題の解決支援を強みとしている。民間企業に加え、法律事務所、投資銀行、プライベートエクイティなど多岐にわたるクライアントを持つ。世界 27 都市に事務所を展開。日本オフィスの設立は 2005 年。日本語ウェブサイトは https://www.alixpartners.com/jp/

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