キリンホールディングス株式会社(社長 磯崎功典 以下キリン)のキリン中央研究所(所長 吉田有人)、国立大学法人静岡大学(学長 日詰一幸、以下静岡大学)および大学共同利用機関法人自然科学研究機構(機構長 小森彰夫、以下NINS)は、2022年1月より酵素によるPET※1リサイクル技術の確立に向けた共同研究を開始します。※1 ポリエチレンテレフタラート
近年、プラスチックの問題が注視されている中、容器包装資源が循環する持続可能な仕組みを作っていくことは喫緊の課題で、解決策としてケミカルリサイクル技術への関心が高まっています。
ケミカルリサイクル技術とは、廃ペットボトルを選別、粉砕、洗浄して汚れや異物を取り除いた上で化学分解処理を行い、PETの中間原料まで分解、精製したものを再びPETに合成する方法です。最近では、“分解”の工程で酵素を用いる「酵素分解法」が注目されています。「酵素分解法」とは、耐熱性PET分解酵素を用いてPETをモノマー分子単位まで分解する方法で、より環境負荷を下げることができます。
キリンは、ケミカルリサイクル技術を探索する中で、これまで培ってきた発酵技術を活用した「酵素分解法」の確立を目指し、2019年より耐熱性PET分解酵素である「PET2」の研究開発を進めてきました。
静岡大学およびNINSでは、2021年7月に「PET2」を改変することで、熱安定性とPET分解活性が大幅に向上した研究成果を発表しています※2。
三者は、それぞれの知見を持ち合うことで、PET分解酵素の実用化に向けた研究開発を加速できると考え、このたび共同研究を開始します。
※2 2021年7月1日付け静岡大学リリース「プラスチック分解酵素の熱安定性と活性を向上させ、熱安定性向上の構造的基盤と活性向上の機構を解明」参照(https://www.shizuoka.ac.jp/news/detail.html?CN=7325)
キリングループ、静岡大学およびNINSは、将来的な「酵素分解法」によるPET分解技術の確立を目指し、本共同研究を進めていきます。
■研究概要
世界でよく利用されているプラスチックであるPETを分解する酵素は、学術論文では複数報告されていますが、 熱への耐性が低く、高温の環境下では分解活性も低くなるため、実用化に至っている例はわずかです。本共同研究では、耐熱性PET分解酵素の一つである「PET2」を対象に、三者が保有している知見や技術を組み合わせて「PET2」を改変することで、熱耐性と分解活性の双方が向上した耐熱性PET分解酵素の獲得を目指します。
また、静岡大学とNINSが、X線結晶構造解析や1分子観察により明らかにしたPET分解活性のメカニズムをもとに、三者がそれぞれ保有する酵素改変技術やスクリーニング技術を活用することで、実用化に耐えうるPET分解酵素を創出します。
■期待される成果
熱耐性および分解活性が高いPET分解酵素の開発により、PET分解に必要な酵素量を低減できるため、PETリサイクルの低コスト化が可能になります。また、「酵素分解法」を用いると、PETの分解に要する熱エネルギーを温和な条件下で削減できるため、環境負荷の低減にもつながります。
■キリングループの「容器包装」に関する取り組みについて
キリングループは、社会と企業のレジリエンス強化へ向けた新たなビジョン「キリングループ環境ビジョン2050」を策定し、「容器包装を持続可能に循環している社会」を目指すことを宣言しています。また「キリングループ プラスチックポリシー」では、2027年までに日本国内におけるPET樹脂使用量の50%をリサイクル樹脂にすることを掲げています。
これらの達成に向け、キリンは、本共同研究を進めることにより、環境にやさしい酵素分解の仕組みを活用した「酵素分解法」によるPETリサイクル技術の実現を目指します。
また、先行して、三菱ケミカル社(社長 和賀昌之)との共同プロジェクトでも、「ペットボトルやその他のペット製品からペットボトルへ」を実現するケミカルリサイクル技術の確立を目指しています。