●受賞のポイント
・超高齢社会において、加齢に伴う認知機能低下とその対策が社会課題となっている一方で、科学的なエビデンスに基づく社会実装が十分ではありませんでした。そのような中で、疫学研究に着目し、有効成分として、カマンベールチーズより乳由来ペプチド「βラクトリン」と、ビール苦味成分である「熟成ホップ由来苦味酸」を独自に発見し、それらの有用性を世界で初めて解明しました※1, 2。
・両成分の臨床エビデンスの構築を行い、手軽に摂取可能な食品素材を開発し、機能性表示食品として初めて実用化を行いました※3, 4。
・一連の、超高齢社会の課題解決に向けた科学的エビデンスに基づく社会実装を行った点が評価されました。
※1 Ano Y et al., Neurobiology of Aging, 2018
※2 Ayabe T et al., Scientific Reports, 2018
※3 Kita M et al., Frontiers in Neuroscience, 2019
※4 Fukuda T et al., Journal of Alzheimers Disease, 2020

βラクトリンと熟成ホップ由来苦味酸
●表彰名
令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)
●業績名
疫学研究の基盤解明による認知機能改善成分の発見と事業開発
●受賞者(5名)
・キリンホールディングス株式会社 R&D本部 研究開発推進部 阿野 泰久
・キリンホールディングス株式会社 R&D本部 キリン中央研究所 福田 隆文
・キリンホールディングス株式会社 ヘルスサイエンス事業本部 ヘルスサイエンス事業部 金子 裕司
・キリンホールディングス株式会社 ヘルスサイエンス事業本部 ヘルスサイエンス研究所 綾部 達宏
・キリンホールディングス株式会社 R&D本部 研究開発推進部 金留 理奈
●研究内容・成果
「βラクトリン」のエビデンス構築
・日本人高齢者対象の食生活に関する疫学研究に着想を得て、白カビで発酵させたカマンベールチーズが認知機能の維持に有用である可能性を解明しました※5。そして有効成分を探索し、世界で初めて「βラクトリン」を発見、命名し、作用メカニズムの解明と 「βラクトリン」が高含有な食品素材の製法を開発しました※1。
・「βラクトリン」が、物忘れを自覚する中高齢者に対して、年齢と共に低下する認知機能の一部である記憶力(手がかりをもとに思い出す力)に有用であることを臨床試験により実証しました※3。
「熟成ホップ由来苦味酸」のエビデンス構築
・ビール苦味成分として知られるホップ由来苦味酸(イソα酸)に認知機能の維持に有用である可能性を解明しました※6。イソα酸と比べて苦味が低く、多様な食品に展開可能な「熟成ホップ由来苦味酸」の有用性を解明し※2、独自の熟成法により熟成ホップエキスを開発しました。
・「熟成ホップ由来苦味酸」が、物忘れを自覚する中高齢者に対して、加齢により低下する認知機能の一部である注意力(集中して複数の視覚情報を同時に正しく判断して処理する能力)の精度の向上に有用であることを臨床試験により実証しました※4。
科学的なエビデンスに基づく社会実装
・「βラクトリン」および「熟成ホップ由来苦味酸」の一連の構築したエビデンスを基に、機能性表示食品を含む多様な食品形態で実用化しました。
・取得した特許を活用して、キリングループ外への導出や新規事業創出の取り組みを進め、超高齢社会における課題解決に向けた社会実装を推進しました。
※5 Ano Y et al., PLoS One, 2015
※6 Ano Y et al., Journal of Biological Chemistry, 2017
●「科学技術賞(開発部門)」について
・「科学技術賞(開発部門)」は、日本の社会経済、国民生活の発展向上などに寄与する画期的な研究開発もしくは発明において、利活用されているものを開発した個人やグループ、または育成した個人を表彰するものです。
●受賞者コメント
キリンホールディングス株式会社 R&D本部研究開発推進部 阿野 泰久
この度、栄誉ある文部科学大臣表彰に選出頂き、大変光栄に存じます。研究にご協力頂いた医師・アカデミアの先生、推薦頂いた経済産業省等、関係の方々に厚く御礼申し上げます。超高齢社会を迎えた我が国において、脳が健康であることは、いつまでも自分らしく前向きな生活を送るために大切です。そのため、今後も科学的なエビデンスに基づく実用化を推進し、継続可能な行動変容の習慣化を通じて健幸長寿社会の実現に貢献してまいります。

キリングループは、長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」において、「食領域」と「医領域」に加え、長年培ってきた高度な「発酵・バイオ」技術をベースにして、人々の健康に貢献していく「ヘルスサイエンス領域」(ヘルスサイエンス事業)の育成を進めています。キリングループは、「βラクトリン」や「熟成ホップ由来苦味酸」を活用し、認知機能をサポートすることで、超高齢社会における健康課題解決を目指していきます。
キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します。