※1 獲得免疫:一度体内に侵入した病原体の情報を記憶し、再び侵入された時にすばやく病原体を排除できるよう対処する仕組み
■ 研究の背景と目的
畜産業界では、健康を維持しながら効率的に育つよう家畜に与える飼料の面からも、その免疫システムを増強して、病気への抵抗力を高める取組みが国際的に進められています。国連食糧農業機関(FAO)では、抗菌剤の使用を抑え家畜の健康を促進する飼料の利用が強く推奨されています※2。
これまでユーグレナ社は、ユーグレナおよびその希少成分であるパラミロンがヒトの免疫維持、調節に機能することを示唆する研究成果を発表してきました※3。パラミロンとは、ユーグレナの希少成分で、きのこなどに含まれるβ-グルカンと呼ばれる細胞内貯蔵物質として生成される多糖類であり、食物繊維の一種です。ヒトや動物が摂取すると粘膜免疫系の免疫細胞に働きかけて免疫賦活作用を発揮すると考えられ、ニワトリに対しても同様にその効果をもたらし、健全な成長をサポートできる可能性があります。
本研究では、パラミロン配合飼料給与によるニワトリの肉用品種であるブロイラー雛の免疫および成長への影響を検討しました。
※2 Antimicrobial Resistance: Animal feeding(FAO)https://www.fao.org/antimicrobial-resistance/key-sectors/animal-feeding/en/
※3 2022年3月23日のニュースリリース https://www.euglena.jp/news/20220323-3/
■ 研究の内容
生後7日齢のニワトリ(Ross308)に、パラミロン粉末無配合飼料(以下、「1.Control」)、パラミロン粉末を飼料1kgあたり25mg、50mg、100mg(以下、それぞれ「2.25mgPA」「3.50mgPA」「4.100mgPA」)を配合した飼料を21日間給与し、14日齢時にキーホールリンペットヘモシアニン(以下「KLH」)を投与し、試験終了時に下記の測定項目を比較しました(一元配置分散分析もしくはTurkey検定、片側α=0.05)。
※4 獲得免疫に関与するリンパ球の分化、成熟状態を解析することで、生体内の免疫系の発達状態や免疫応答状態を把握する方法
※5 免疫細胞から分泌される生理活性物質であるサイトカインの合成に必要なmRNA発現量を測定
※6 抗体産生能力を測定する方法の一つ
■ 研究の内容と結果
パラミロン給餌によって組織中免疫関連細胞の相対的比率が増加しました
試験終了時におけるニワトリの平均体重は1.Controlと他の試験区間に有意な差はありませんでしたが、獲得免疫に関わるT細胞の分化が起きる一次リンパ器官である胸腺のリンパ球サブセット解析では、CD4陽性T細胞の相対的比率が1.Controlに対してその他の試験区全てで有意に高くなりました。CD8陽性T細胞の相対的比率は1.Controlに対して3.50mgPAで高くなる傾向(P=0.1)でした(図1)。
血中に侵入した抗原に対する免疫応答を行う二次リンパ器官である脾臓のリンパ球サブセット解析では、それぞれ相対的比率は1.Controlと比較して、CD4陽性T細胞では3.50mgPAおよび4.100mgPAで有意に高く、CD8陽性T細胞で2.25mgPAで有意に高く、CD4陽性CD8陽性T細胞で3.50mgPAおよび4.100mgPAでも有意に高くなりました(図2)。また同組織でB細胞の相対的比率は1.Controlと他の試験区間に有意な差はありませんでした。
同じく二次リンパ組織である盲腸扁桃のサブセット解析においてCD8陽性T細胞の相対的比率は1.Controlと比較して、4.100mgPAで有意に高くなりました(図3)。また、B細胞の相対的比率はMHC classII発現B細胞で1.Controlに対して4.100mgPAで有意に高くなりました(図4)。
図1:胸腺サブセット解析
図2:脾臓サブセット解析
図3:盲腸扁桃サブセット解析(T細胞)
図4:盲腸扁桃サブセット解析(B細胞)
パラミロン給餌によってKLH特異的抗体価が増加しました
14日齢時にニワトリの翼静脈中にKLH抗体を投与して21日齢時に血中のKLH特異的抗体価(IgMおよびIgY)を測定したところ、血中IgMは1.Controlに対して、4.100mgPAで高くなる傾向(P=0.07)があり、血中IgYは1.Controlに対して、4.100mgPAで高くなる傾向(P=0.06)がありました(図5)。
図5:抗KLH抗体価
以上の結果から、ニワトリにパラミロン配合した飼料を給与することによってその獲得免疫能を向上することが示唆されました。
本研究結果を踏まえ、今後はニワトリに対するユーグレナ給餌に関する影響についても研究を進めて行きます。
<国立大学法人宮崎大学について>
宮崎大学は、教育学部・医学部・工学部・農学部・地域資源創成学部の5学部と7大学院研究科を有する国立総合大学で、「世界を視野に、地域からはじめよう」のスローガンのもと、グローバルな影響を常に考慮しつつ、ローカルな場を活動の拠点として、その成果を広く世界に発信することを大切にしています。特に、異分野融合の研究に力をいれており、2007年度に農学工学総合研究科(博士後期課程)を設置したほか、2010年度に日本で初めてとなる医学と獣医学が融合した医学獣医学総合研究科(博士課程)も設置するなど、他大学に先駆けて異分野融合型の研究体制の土台を築いており、関係機関と連携しながら地域の産業振興に役立つ研究と人材育成に力を入れています。
https://www.miyazaki-u.ac.jp
<株式会社ユーグレナについて>
2005年に世界で初めて微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養技術の確立に成功。基本戦略として位置付けているバイオマスの5F(Food, Fiber, Feed, Fertilizer, Fuel)に沿って、ヘルスケア事業、バイオ燃料事業を推進。2022年にサステナブルアグリテック領域(Sustainable Agri-Tech:SAT)に本格参入。「人と地球を健康にする」というパーパスのもと、事業成長が社会課題の縮小につながるという「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」体現のため、SAT領域に存在する社会課題縮小を目指し、有機肥料の販売や飼料の研究開発などに取組んでいます。
https://euglena.jp
<あすかアニマルヘルス株式会社について>
あすかアニマルヘルス株式会社は「動物の健康と食の安全を守ることにより、人と動物が共生できる社会づくりに貢献する」ことを経営理念として動物用医薬品事業と動物用飼料添加物事業の二本柱で事業を展開しております。我が国の食糧自給の基礎となる畜産及び水産物の生産性の維持向上、さらには犬及び猫等のコンパニオンアニマルの健康維持に有用な動物用医薬品等の研究・開発、製造、輸入、販売を通じて、生産農家様や獣医療関係者様に貢献しています。
https://www.aska-animal.co.jp/index.html