食材などの納入業者、取引先の飲食店で業績に明暗 「居酒屋」向けは売上15%で激減、「テイクアウト」は減少1割以下

掲載日: 2021年06月08日 /提供:帝国データバンク

外食向けの「酒類・飲料」は約半数の業者が2割以上の減収、納入企業でも我慢の経営が続く


<ポイント>

飲食店向け納入企業は全体の8割超が減収、テイクアウト向けの納入企業は減収割合が7割にとどまるなど明暗分かれる
酒類提供の居酒屋向けなどは平均15%超の大幅減、総菜や弁当・宅食向けは8%の減収にとどまる
国・自治体などが飲食店納入業者の支援策を拡充、当面は我慢の時期が続く見込み



飲食店向けと中食・テイクアウト向けで取引先の業績に明暗が分かれる
新型コロナの感染拡大により、時短営業や外出自粛の要請、大人数での会食減少などで、例年通りの売上確保が難しい外食業界。影響は連鎖的に関連産業にも広がり、居酒屋をはじめ飲食店向けに食材などを納入する納入企業では業績悪化が深刻化している。

居酒屋やレストランなど、飲食店を主力得意先とする食材納入企業の2020年度業績は、前年度から「減収」となる企業が8割を超えた。このうち2割以上の減収となる企業が3割を占めるほか、減収企業の売り上げ落ち込み幅は前年度から平均13.6%の減少となった。

一方で、コロナ禍で需要を捉えて業績を伸ばす、弁当や総菜など中食・テイクアウト業態向けを中心とする食材納入企業の業績は苦境から脱しつつある。テイクアウト店を取引の主力とする企業のうち、「減収」企業が占める割合は約74%で、飲食店向けに比べ約7ポイント低かった。売り上げの減少幅も前年度から平均8.9%の減少にとどまっており、飲食店の業態によって納入業者の業績に明暗が分かれている。


酒類提供の居酒屋向けなどは平均15%超の大幅減、総菜や弁当・宅食向けは8%の減収にとどまる

居酒屋向けなどは売り上げが平均15%ダウン、 総菜や弁当・宅食向けは減少率1割以下に
帝国データバンクが保有する企業データベースを用いて飲食店の商流を分析し、飲食店を得意先とする企業を調査した。対象は飲食店への売り上げ依存度が大きく(主力取引先)、食材など食料品を中心に取り扱う企業。業種には各種卸売業者や小売業者のほか、飲食店と直接取引を行う食品加工会社、産地直送などで取引をする生産者も含んでいる。

最も減収幅が大きかったのが「バー、スナック」を主力得意先とする納入企業で、前年度からの売り上げは平均で18.3%減少。次いで、「料亭」(△15.7%)、「居酒屋」(△15.1%)向けと続いた。緊急事態宣言の発出やまん延防止等重点措置などにより飲食店の時短営業や休業が長期化するなか、こうした飲食店向けを主力とした納入企業でも売り上げの大幅な減少を余儀なくされた。なかでも、バーや居酒屋など酒類を提供する業態では時短営業の影響が大きく、「料亭」も在宅勤務の普及や企業業績の悪化、会食を避ける動きなどから接待需要が大幅に縮小したことで、他業態との取引に比べて特に大きな影響を受けている。加えて、これらの飲食店向けに扱う食材は高価格帯の生鮮食品や酒類などが多いため、売り上げが伸びるスーパーや小売店向けなど家庭用、テイクアウト向け販売への切り替えが難しく、結果的に業績へのダメージがより広がった。

一方、「総菜」向けは前年度から平均8.3%減、「弁当・宅食」向けは9.1%減だった。「巣ごもり」などコロナ禍で増えたテイクアウトやデリバリー需要に応じる形で、年度後半は食材などの納入量が増加基調で推移した企業も目立った。その結果、1回目の緊急事態宣言の発出による影響も残ったことで売り上げこそ減少したものの、飲食店向けに比べて減少は小幅にとどまっている。


前年度から2割以上の「減収」割合 「酒類・飲料」で最も多く約半分を占める
取り扱う商品でも業績に明暗が分かれた。ビールなど酒類の小売店や卸売業者、蔵元など「酒類・飲料」などを飲食店に納入する企業全体のうち、約5割が前年度から売上高を2割以上落とした。生鮮品を取り扱う「魚介類」(37.2%)、「青果」(32.8%)などと比べても割合が突出して高く、全体を大きく上回った。取引先の居酒屋や飲食店向けの酒類販売がコロナ禍前の水準に戻らないなど、酒類を提供する飲食店の営業不振による影響を色濃く受けた。

他方、みそやしょうゆなど「調味料」(17.6%)、「加工品」(23.0%)業界でも影響は受けたものの、比較的軽微にとどめた企業が多かった。調味料や加工品なども業務用の需要が大きく落ち込んだものの、生鮮品などに比べて日持ちする品目が多いほか、食品スーパーやネット通販などへの出品が比較的容易だったことで、家庭向け販売が伸長。飲食店向けの売り上げ減少を補う傾向が強く表れた。


国・自治体などが飲食店納入業者の支援策を拡充、当面は我慢の時期が続く見込み

給付金の対象が飲食店の取引先にも拡大しているものの、依然として厳しい状況が続いている(写真=イメージ)
外食産業の関連産業では、取り扱う商材の特性から需要が伸びる家庭向けの販売転換が難しいケースも多い。また、生産者や加工会社では外食需要の先行きが読めず、次年度の生産量や契約量が決められないといった問題も出てきている。

こうしたなか、外食産業では引き続き歓送迎会などの宴席需要などが最繁忙期となる3-4月の売り上げが振るわず、外食を控える動きは引き続き根強い。コロナ禍で堅調だった中食業界も、オフィス街でサラリーマンを対象とした弁当販売は苦戦するほか、好調な家庭用の総菜分野も、商品力向上が進むスーパーやコンビニ、テイクアウト業態への転換が急ピッチで進んだ飲食店など他業態との競争が激化しており、テイクアウト店への転換・注力が落ち込んだ飲食店向けの需要を補えるかは不透明さが残る。そのため、周辺産業では今後も飲食店の動向に業績を大きく左右される厳しい業況を余儀なくされるとみられる。

こうしたなか、経済産業省は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の適用により休業や時短営業の要請に応じた飲食店への納入先などに対し、1カ月当たり20万円を支給する支援金給付事業を進める。1カ月の売上高が前年同月もしくは2年前の同月から5割以上減少したことが条件で、最大60万円が支給されるなど、飲食店に関連した周辺産業の経営を下支えする 。愛知県や群馬県では最大で40万円を給付するなど、複数の自治体で国の給付金に上乗せする独自の支援事業も進む。これらの補償では地域により支給条件が異なる点もあるものの、外食周辺産業に対する支援は徐々に拡充されている。当面はこうした支援策を活用し、コロナワクチンの接種・普及による感染抑制後の外食需要回復へ期待しつつ、事業の新規開拓などを模索する我慢の時期が続く。ただ、既に新型コロナの感染拡大による影響で飲食店向けの受注が低迷し経営破綻した食材卸業者も出ており、周辺産業では引き続き「待ったなし」の状況が続きそうだ。

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