UCCグループは、「カップから農園まで」、すなわちコーヒーの栽培から原料調達、研究開発、製造加工、流通、販売に至るまで、一貫したコーヒー事業を展開しています。その独自のバリューチェーンにおいては、コーヒー産業の課題やサステナビリティ(持続可能性)にも配慮した様々な取り組みや原料調達、安定供給を実現し、さらに業界最高水準の独自の一貫した品質保証・検査体制を確立しています。
その中で、研究開発を担うUCCイノベーションセンター※2は、お客様にコーヒーの「新しいおいしさ」や「安全・安心を追求した品質」を提供するために、最新テクノロジーを整えた設備のもと、味覚分析・検査や研究開発を実施し、コーヒーが持つ様々な可能性を追求しています。
近年、UCCはコーヒーの味覚研究に力を入れており、ヒトの官能評価※3や味覚センサーをはじめとする機器分析を活用した味覚分析を行っています。ヒトの官能評価では、食品の味を総合的に評価するのに対して、味覚センサーは、苦味や酸味といった個々の味を独立して分析することができ、各味覚成分の数値化や可視化ができます。UCCは、味覚センサーを使って、コーヒーの「苦味」「渋味」「濃厚感」「後味」「うま味」「酸味」の強さを数値化することで味の可視化に取り組み、食べ物やシーンに合わせたコーヒーブレンドの設計や製品開発など、コーヒーの更なる可能性を発見・発信しています。
コーヒーに含まれる成分は、香りだけでも800種類以上あり、味にかかわる成分についても未知な部分が多い状況です。コーヒーの味における特徴である「苦味」に寄与する成分には、“カフェイン”“トリゴネリン”などが知られており、特にカフェインはコーヒーの苦味へ10~30%寄与しているとされています。しかし、カフェインレスコーヒーにも苦味はあることから、カフェイン以外にも、複数の成分により苦味は形成されていると考えられ、「苦味」の究明は、コーヒーの複雑な味わいを理解する上で大変重要であるといえます。
今回の研究では、コーヒーの味わいに大きく影響する要素であるにもかかわらず、どのような成分が大きく寄与しているか明らかになっていない部分が多い「苦味」に着目しました。コーヒーの苦味を研究する上で、ヒトの官能評価だけでは特定の苦味物質を正確に評価することは難しいため、酸味や苦味といった、各呈味に対応する独立したセンサーを持つ「味覚センサー」を活用することで、今までコーヒーの苦味として認識されていなかった、ニコチン酸※4、L-乳酸※5、ニコチン酸アミド※4が寄与しているという新たな発見につながりました。
本研究では、コーヒーの特徴的な呈味である「苦味」に着目し、コーヒーの苦味物質を新たに特定するに至りました。他の呈味についても同様の実験を行うことが可能であり、本技術を用いて各呈味についても研究を進めることで、コーヒーの複雑な味わいのさらなる解明が期待されます。また、多様化するコーヒー市場において、コーヒーの味に関するお客様の幅広いニーズにも将来的に応えられると考えています。
UCCは、今後もコーヒーの可能性を追求し、コーヒーの味覚を解明していくことで、よりお客様のニーズに合った製品や技術を生み出してまいります。
【参考資料】
研究概要
<研究の背景・目的>
・苦味はコーヒーの特徴でもある呈味の一種。これまでコーヒーではカフェインなどが注目されてきた。
・しかしながら、コーヒーに含まれる化合物は香気成分だけで800種以上報告されており、呈味物質となれば、それ以上の数が含まれると予想され、他にも知られていない苦味物質があると考えられる。
・ヒトでの官能評価試験では環境的、心理的要因に左右され、再現性が取れた評価が難しい。一方で、味覚センサーでは各呈味に対応する独立したセンサーがあり、ヒトより再現よく評価できると考えられる。
・本研究では味覚センサーと各種分析機器を用いて、コーヒーの苦味の探索を行った。
<方法>
・化合物の定量には分析機器であるLC-MS/MS、LC-PDA、LC-UV※6を使用した。
・コーヒーの苦味の定量には味覚センサーを使用した。
・化合物の定量値と、苦味の定量値の結果を結びつけるために、多変量解析を使用した。
<結果>
・コーヒーに含まれる30種類の化合物を定量した。
・多変量解析の結果から、ニコチン酸、L-乳酸、ニコチン酸アミド、VCO※7、FQL※8等が苦味物質の候補として挙がった(図1)。
・ニコチン酸、L-乳酸、ニコチン酸アミドをコーヒーに添加し、味覚センサーで測定した。
・結果、3種の化合物共に添加したコーヒーの苦味応答が増加した(図2)。
⇒過去に報告されていない、コーヒーに含まれる苦味を報告できた。
VIP(Variable Importance in Projection)値
PLS回帰分析において、モデルの予測性能に対する寄与を表す。
VIP値が大きいものほどモデルに貢献しているとされ、一般に1以上が予測性能への貢献度が高いとされる。
<論文掲載>
Hirofumi Fujimoto, Yusaku Narita, Kazuya Iwai, Taku Hanzawa, Tsukasa Kobayashi, Misako Kakiuchi, Shingo Ariki, Xiao Wu, Kazunari Miyake, Yusuke Tahara, Hidekazu Ikezaki, Taiji Fukunaga, Kiyoshi Toko. Bitterness compounds in coffee brew measured by analytical instruments and taste sensing system. Food Chemistry. 342:128228, 2021
本件詳細は、UCCサイト内に学術発表として掲載しています。
https://www.ucc.co.jp/company/research/taste/bittertaste.html
UCCが取り組んでいる味の可視化について
コーヒーを味覚センサーで分析し「苦味」「渋味」「濃厚感」「後味」「うま味」「酸味」の強さを数値化し、得られた数値をレーダーチャートに表すことで味を可視化しています。
浅炒り、中炒り、深炒りのコーヒーを分析し結果を比較すると、浅炒りのコーヒーは酸味が強くライトな味わい、深炒りのコーヒーは苦味や濃厚感が強くストロングな味わいであることがわかります。
<味の可視化の取り組み例:焙煎によるコーヒーの味の変化>
味覚センサーを活用する技術として、UCCはコーヒーと食べ物の味を数値化し、その分析結果から相性のよい食べ物とコーヒーの組み合わせを提案する「UCCフードマッチングシステム」(特許第6475174号)を開発しており、この技術を活用して、お客様がコーヒーを楽しめる新たな提案をしています。
※1 味覚センサー
味覚センサーとは、人の五感の一つである味覚の代わりとなる装置。客観的な味の可視化が可能なことから、製品の比較、品質管理等、食品業界では広く使用されている。
※2 UCCイノベーションセンター
コーヒーの可能性を最大限に追求する独自の研究開発施設。コーヒーが持つ様々な可能性を追求する「研究・企画」、新しい製法や加工技術を開発する「技術開発」、新製品の品質設計や評価などを行う「製品開発」の3つの機能を備え、次代のコーヒーイノベーションの創造・発信に取り組んでいる。
※3 官能評価
ヒトが実際に感じる食品の味や香り、質感に対して評価者が点数や順位をつけてその品質を評価する方法。食品の品質を正確に評価するためには優れた感覚や、長年にわたる訓練を要する。UCCにはコーヒー鑑定士、CQI認定Qアラビカグレーダーといった国際的な資格を持った熟練したコーヒーのプロフェッショナルも多数在籍している。
※4 ニコチン酸、ニコチン酸アミド
別名「ナイアシン」として知られており、ビタミンB群のひとつ。肌の健康を維持する成分としても着目されている。
コーヒーを焙煎すると様々な化学反応が起こるが、その過程でニコチン酸は増加し、ニコチン酸アミドは減少する。
※5 L-乳酸
自然界に広く存在し多くの発酵食品にも含まれている。酸味料としても広く使用されている。
※6 LC-MS/MS、LC-PDA、LC-UV
LC-MS/MS(液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計)、LC-PDA(液体クロマトグラフ-フォトダイオードアレイ検出器)、LC-UV(液体クロマトグラフ-紫外可視光検出器)は、それぞれ、混合物に含まれる物質の定性・定量に使用される分析機器。水に溶けている幅広い化合物を測定可能。
※7 VCOs
ビニルカテコールオリゴマー。コーヒーの焙煎が進むにつれ生成される。
4-ビニルカテコールという物質が縮合重合してできた分子で、深炒りしたコーヒーの苦味物質として知られる。
※8 FQLs
フェルロイルキナ酸ラクトン。コーヒーに含まれるポリフェノールであるクロロゲン酸類の一つ。
中炒り程度のコーヒーの苦味物質として知られる。
▼UCCの研究活動 https://www.ucc.co.jp/company/research/
【本件に関する一般のお客様からのお問い合わせ先】
UCC上島珈琲株式会社 お客様担当
TEL 078-304-8952
WEB https://www.ucc.co.jp/customer/