世界貿易機関(WTO)
第30回:うなぎとWTO? 20年続くWTO漁業補助金交渉
令和3年7月30日
7月28日の土用の丑の日には、皆様の食卓にうなぎは登場しただろうか? 突然うなぎの話から始まり、WTOとどう関係するのかと疑問に思った方もいらっしゃるかもしれない。それでも、第5回のシラスウナギの乱獲の話を思い出していただけた愛読者の方がいらっしゃれば、感謝感激にたえない。現在WTOでは、うなぎに限らず海洋水産資源の持続的な利用と保全のため、過剰漁獲等につながる補助金を禁止すべく交渉をおこなっている。当初目標としていた2020年までの妥結は新型コロナもあり先延ばしになったものの、その遅れを取り戻すべく、去る7月15日、オコンジョ=イウェアラ事務局長が各国閣僚らをオンラインで召集し、交渉妥結にむけた機運を高めた。
漁業補助金交渉が開始されたのは、2001年ドーハ・ラウンド交渉。以後20年以上、有害な補助金に対応するグローバルな国際約束(ルール)を作る力をもった唯一の場としてWTOを舞台にマラソン交渉が続けられてきた。特に、2015年に「持続可能な開発目標(SDGs)」が国連で採択され、目標14.6で、2020年までの特定の形の漁業補助金の禁止が掲げられたことで交渉が加速。2021年3月のオコンジョ=イウェアラ事務局長の就任スピーチでは漁業補助金交渉の妥結は、早期に成果を出すべき優先事項として言及された。
では、海洋水産資源の持続可能な利用と保全のために有害な漁業補助金を禁止する、といっても、具体的にどのような規定が設けられようとしているのだろうか? 国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の漁獲量の34%は過剰漁獲であり、多くの場合において利益のでていない「ゾンビ」漁業が国家からの補助金によって続けられているという。これらの状況に対応すべく、現在11条から成る協定テキストがテーブルに上っている。これらの中には例えば、違法・無報告・無規制(IUU)漁業につながる補助金の禁止、一定水準しか資源がない「枯渇資源」の漁獲に対する補助金の禁止、過剰能力・過剰漁獲につながる補助金の禁止などが定められている。これらを条文に結実させ、その実施を通じて、海洋資源の持続可能な利用や管理を促していくことが、この協定の大きな狙いである。他にも途上国への特別な配慮や補助金の通報など、我々の限られた海洋資源を守るべく、WTOに加盟する164の国・地域が合意できるよう様々な工夫がなされている。
7月15日の閣僚級会合は、WTO事務局のあるジュネーブの朝から夜までオンラインで10時間以上かかった。オコンジョ=イウェアラ事務局長及びサンティアゴ・ウィルズ議長(コロンビア常駐代表)そして104か国の閣僚が参加した。我が国からは、野上浩太郎農林水産大臣と鷲尾英一郎外務副大臣が参加し、海洋資源の持続可能な利用を目的とするSDGsに基づき、交渉の早期妥結への強いコミットメントを表明した。また、全ての国が協力して取り組むべき課題である海洋資源の管理体制の構築を支援すべく、日本として引き続き国際社会に貢献する姿勢を示した。
会合の最後に、閣僚らは、今後交渉を急ぎ、年末の第12回閣僚会議までに交渉をまとめることを確認した。オコンジョ=イウェアラ事務局長は、会合を「持続可能なブルーエコノミーの構築に寄与する高水準の結果に今最も近づいている」という力強い言葉で締めくくった。
我々の食卓や生活をとりまく豊かな自然を守るべく、日夜進められているWTOにおける多国間貿易交渉から目が離せない。