森永製菓株式会社(東京都港区芝浦、代表取締役社長・太田 栄二郎)では、おやつの価値について感性研究を進めています。この度、玉川大学大豆生田啓友教授、岩田恵子教授との共同研究において、保育の現場での行動観察研究により、おやつが子どもたちの共食の場を楽しく、豊かなものにしていることが分かりました。特に「おっとっと」は様々な種類の立体的な形、「ホットケーキミックス」は調理過程の見た目や色、香り等の状態変化が五感を刺激し、楽しさや満足感といった情緒的価値を提供していることが分かりました。本研究は、玉川大学との共同研究として行われ、こども環境学研究2024年第20巻 第3号に論文が掲載されました。また、第18回キッズデザイン賞《子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン部門》を受賞しました。
<研究の概略>
・「おっとっと」や「ホットケーキ」はおやつに関する発話割合が大きかった
・おやつの特徴が、子どもの共食の場の楽しみ方を豊かにしていた


<研究背景と目的>
「食」は、成長に必要な栄養を摂取する生理的機能に加え、共食を通じて基本的な食習慣を身につけ、人間関係を形成する社会的機能も担います。保育所では「食育」の推進が掲げられていますが、子どもたちの自然な食行動や仲間とのやりとりに着目した研究は少なく、特に低年齢の子どもは、生理的機能を充足させることに重きが置かれがちで、自然な食行動の観察研究はあまり行われていません。しかし、乳幼児期のおやつは「補食」としての生理的機能だけでなく、おやつ時間での気分転換や共食の時間を楽しむといった社会的機能も果たしています。そこで、本研究では、保育の中でのおやつ時間に着目し、ふだんのおやつ、立体的な形のある菓子(おっとっと)、調理工程を含む菓子(森永ホットケーキミックスを子どもたちが作って食べる)の3つの場面で子どもたちのやりとりを観察し、おやつの楽しさと共食の場の特徴を明らかにすることを目的としました。
<研究手法>
3つの保育施設に協力を依頼し、2歳、3歳、5歳児クラスの子どもたちと保育者を対象に行いました。おやつの場面として、1.普段のおやつ(おにぎりまたはせんべい)、2.立体的な生き物形のスナック菓子(おっとっと)、3.調理工程を含む菓子(森永ホットケーキミックス)の3つの異なる場面を設定し、テーブルごとにカメラとボイスレコーダーを設置し、映像と音声を記録しました。また、おやつ喫食後には、子どもたちと保育者に感想をヒアリングし、おやつに関係した遊びが展開された場合も観察・記録しました。
分析1: 3つのおやつ場面の特徴を子どもの発話数および喫食時間により明らかにしました。対象児の発話を文字に起こし、発話のターン数をカウントし、また、発話を「その日のおやつに関する発話」とそれ以外に区別し、全発話数のうちおやつに関する発話数の割合を算出しました。さらに、対象児が食べ始めてから食べ終わるまでの時間を計測しました。
分析2:3つのおやつ場面の特徴について、アフォーダンス理論(※)の視点から検討しました。特におやつというモノの特徴に子どもたちがアフォードされる様子が特徴的に見られる場面を抽出し、動画・音声データを用いてテーブルについた全員のやりとりを身体表現も含めて文字に起こしました。おやつの特徴であるアフォーダンス、子どもたちや保育者のやりとり、そこから読み取れる子どもの心情や発達との関わりに着目して分析を行いました。
※アフォーダンス理論とは
Gibson.J.J.氏の造語で、「環境やモノがその意味を私たち動物に提供=Affordしている」という概念であり、私たちの「行為の資源」となる、と表現される。環境やモノが、動物やヒトの行為を引き出す性質を持っているという理論のこと。
<研究結果>
ふだんのおやつでは、子どもたちがおやつ以外の別々のモノのアフォーダンスをピックアップして発話することから、やりとりは持続せず発話数も少ない結果となりましたが、ふだんと同じおやつで展開が既知であることによる安心感や自由さが感じられました。おっとっとでは、豊富な形やつまめる大きさ、空き箱の写真などのモノ自体の特徴により、活発なやりとりが生まれました。各園、各テーブルでよく似たルーティンが出現し、やりとりの持続性及び発話数の増加に影響していると考えられました。2歳児クラスでは保育者が関わりながらも、菓子のアフォーダンスを利用して子ども同士のやりとりが促進されました。3歳児クラスでは、保育者の手を借りずに子どもたちだけで楽しいやりとりに発展させる様子が見られました。5歳児クラスでは、菓子が無い状態でも菓子から連想された話題で会話が続く様子が観察されました。ホットケーキでは、ミックス粉に卵や牛乳を入れて混ぜる、焼く、ひっくり返す、膨らむ、焼き色がつく、匂いがしてくる、といった工程の中で、多様な気付きや調理行為につながり、子どもたちがホットケーキを仲間と共に作る中で、環境の変化を多角的・統合的に知覚している様子が観察され、喫食場面では、おやつに関する発話割合が高い結果となりました。保育者からの後日談として、子どもたちからの要望で再度ホットケーキ作りをし、フルーツシロップのトッピングを楽しんだという事例もあり、子どもたちにとってホットケーキは、「自ら作る・自ら選ぶ」という自由度が高く、食事には無い、特別感を感じている可能性が示唆されました。

今回の観察研究から、子どもたちがそれぞれのおやつのアフォーダンスを多様にピックアップして 仲間とともに分かち合うことで 共食の場の楽しみ方が豊かになっていることが確認できました。
<今後に向けて>
今回の研究結果から、おやつの社会的機能が存分に発揮され、子どもたちがおやつを介して豊かな楽しさのある場を創出していることを明らかにしました。特に、立体形が特徴である「おっとっと」や調理工程を含む「森永ホットケーキ」といった特別感のあるおやつでは、五感が刺激され、楽しさや満足感といった情緒的価値が大きくなる様子が観察できました。これまで、食行動に関しては健康的に食べることが重視されてきましたが、社会文化的側面についての研究も重要と考えています。今後も「おやつ」を共に作り、共に食べることに代表されるような、おやつを介したコミュニケーションがもたらす価値の研究をさらに進めていきます。
■キッズデザイン賞(特定非営利活動法人キッズデザイン協議会主催、経済産業省、内閣府、消費者庁、こども家庭庁後援)
キッズデザイン賞は、子どもや子育てに配慮した製品・サービス・空間・活動・研究を対象とする顕彰制度です。「子どもたちが安全に安心して暮らす」「子どもたちが感性や創造性豊かに育つ」「子どもを産み育てやすい社会をつくる」という目的を満たす優れた作品を選び、社会に広く発信することを目的に創設され、本研究の成果は、《子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン部門》を受賞しました。
<18回キッズデザイン賞 参考サイト>
8thKDawardPressrelease20240821.pdf
<大豆生田啓友教授コメント>

こども家庭庁が出した「はじめの100か月の育ちビジョン」では、乳幼児期の心・身体・環境のウェルビーイングの育ちの重要性を強調しています。今回の研究は、保育の場でのおやつ時間が、単に食べる行為だけではなく、菓子自体(モノ)との対話、他者との対話のプロセスの豊かさなど多様なものを創出していること、そして、この豊かな共に食べる「共食」の場がウェルビーイングにつながりうることの一端を明らかにしたものと言えるでしょう。
大豆生田先生ご経歴
玉川大学教育学部教授。専門は保育学・乳幼児教育学。社会的活動として、日本保育学会副会長、こども環境学会副会長、こども家庭庁こども家庭審議会委員、文部科学省「今後の幼児教育の教育課程、指導、評価等の在り方に関する有識者検討会」委員、NHK・Eテレ「すくすく子育て」出演等。
<岩田恵子教授コメント>

保育の場で「おやつ」を共にすることを丁寧に見ていくと、「こんなにさまざまなことが生じている!」と感嘆する時間を過ごしました。菓子(モノ)との対話、そして菓子をめぐる他者との対話は本当に豊かで楽しい出来事です。このプロセスで、子どもたちはさまざまなことを感じ、あらわしています。それは「分類する」「空想する」「数える」といった考えること、「共有する」「興味を抱く」といった心動かすことにもつながりました。「ウェルビーイング」は、身体的・精神的・社会的(バイオサイコソーシャル)に幸せな状態と説明されますが、その幸せな状態を「おやつ」を共にする共食の「場」そして「時間」から考える研究となりました。
岩田先生ご経歴
玉川大学教育学部教授。玉川大学大学院教育学研究科・脳科学研究科兼担。専門は、発達心理学・保育学。著書に『「子どもがケアする世界」をケアする--保育における「二人称的アプローチ」入門』ミネルヴァ書房(共著)、『子どもの遊びを考える--「いいこと思いついた!」から見えてくること』北大路書房(共著)など。